ゴールデンウィークはあっという間に終わってしまった。だけど、菅谷と映画に行ったりクラスの女の子達とお買い物に行ったり、なかなか充実していた。もちろん勉強も欠かさず。今日は連休最終日。特に用事はないけれどずっと家にいるのはもったいないので、ふらりと本屋にでも行くことにした。
明日からはまた暗殺する日々だ。勉強と両立させなきゃいけないからいろいろと大変だけど、今ではそれも含めて学校が楽しい。早く休みが終わらないかなぁって、そればかり考えていた。
「(……前原くんにも、早く会いたいし)」
せっかく同じクラスになれたんだもの。休みの日はむしろもったいない!なんてことを思いながら本棚を眺めていると、前々から探していた本を見つけた。こんなところにあったんだ。来てよかった、とその本に手を伸ばすが、それはちょうどギリギリ届かない位置にあった。でもあとちょっとなんだけどな……!頑張って背伸びをしていると、横からスッと手が伸びてきた。
「やっぱり生駒さんだ」
「……!?まっまっ、前原くん……!」
「すげー偶然。あ、本これでいい?」
本を受け取る手が震える。会いたいなと思っていた矢先に会えるなんて……!本当にすごい偶然と、まるで少女漫画のようなシチュエーションに私の心臓がうるさく鳴り始めた。
「一人?」
「うっうん、ちょっと散歩がてら……。前原くん、は?」
「俺は、あー…約束ドタキャンされて」
前原くんは目を逸らせて言った。誰か友達と約束だったのかな。前原くんとそのお友達には悪いけど、ありがとうドタキャンしてくれて!と感謝したい。私としてはこの幸運をモノにしてなんとかもう少し会話を続けたいところだ。
「そーだ!生駒さんこの後暇だったら、良かったら遊ばない?」
「!?!?」
会話どころかまさかのお誘いに目を丸くした。私、今日から神様の存在を本気で信じようと思う……!驚いて固まっている私に、前原くんは「や、やっぱ嫌?」とおずおずと尋ねた。だから、私は全力で頭を横に振って否定した。
「ぜっ全然!暇だったし、すごく嬉しいです!」
「ほんと!?良かったー!そんじゃ行こーぜ」
思わず敬語になる私に笑いながら、前原くんは「あ、まずは本の会計か」と呟いた。今日はとりあえず、前原くんが取ってくれたこの本だけ買おうとレジへ向かう。嬉しすぎてニヤける私に店員さんはなぜか暖かい眼差しを送ってきた。
本屋を出た後は時間も時間だったのでお昼ご飯を食べに行った。お店は前原くんオススメというお洒落なところ。「美味いね」と言う前原くんに同意を返すけど、前原くんと向かい合って座りおしゃべりしながら食事をするっていう状況に置かれた私は、正直食事の味も飲み物の味も緊張でわからなくなっていた。
「さーてと、どっか店見てまわる?今日は生駒さんの行きたいとこに付き合うぜ!」
「えっと……じゃあ雑貨屋さん見てもいい?」
「いいよ。よく行くとこ?」
「うんっ!お気に入りのお店なの」
いつもよりたくさん話しているからか、落ち着いていられる……!私と前原くんがまず向かったのは、私のお気に入りの雑貨屋さんだ。そろそろ新作が入荷されるのを思い出したのだけど、普通、男の子には退屈なとこだったかな?菅谷は雑貨とかアクセサリーとか見るのも作るのも好きで、よく一緒に来るからってうっかりしてた。そう心配になったけど、前原くんは特に気にせず一緒に店内まで入った。その上「おっ、これ生駒さん似合うんじゃない?」なんて勧めてくれる。よ、良かった……!
「(……あっ、可愛い)」
それから店内を見て回っていると、可愛らしいお花のヘアピンを見つけた。ちょうど勉強中とかに前髪を留めるピンが欲しかったし、こういう控え目なお花の飾りなら学校でつけても大丈夫そう。欲しいなぁ……。
だけどちょっとお財布と相談しなくては。もともと今日は本屋に……というかお散歩目的で来たのだから、最初からお財布にあまりお金を入れて来なかった。そこから本代とお昼代が引かれて(前原くんはお昼奢ると言ってくれたけどそれは断った。)、更に今月は他に欲しい物がある。それにこのピン、どうせ買うなら色違いもセットで欲しいところ。全部お小遣いからやり繰りしなくちゃだから……。
「(うー……うん、月末にまた来よう…)」
ちょっと残念だけど、仕方が無い。しばらく悩んでいたヘアピンの前からやっと離れた。月末まで残ってますようにと祈っていると、別のとこを見ていた前原くんが声をかけてくる。
「さっきの買わないの?」
「あー…うん、今日はいいかなって」
「そ?じゃ、ちょっと先、外で待っててもらっていい?」
「?うん、わかった」
申し訳なさそうにする前原くんに見送られ私は先にお店を出た。うーん、この後はどこに行こう。私の行きたいところと言っても全部見るだけになりそうだし、前原くんの行きたいとこも教えてもらおうかな?そう思いながら不意に視線を横にやると、よく見知った集団がこちらに来るのが見えた。
「っ……」
「ごめん、生駒さん。お待た―…」
「まっ、前原くん、ごめんなさいこっちに!」
「えっ?」
お店から出てきた前原くんを慌てて引っ張り、私達は運良く近くにあった花壇とベンチの陰に身を潜めた。ぎゅっと手を握り、その子達の賑やかな声が通り過ぎるのを待つ。やがて彼らが遠くなったことを確認すると、私はほっと安堵の息をついた。そして、無意識の内に前原くんの腕にくっ付いていたことに気付いた………!?
「わっ!?ごっごめんなさい!」
「いーよいーよ!……今の、知り合い?」
「あ……うん、A組の時の友達」
目を伏せて、そこで止めておけばいいものを「……だと思ってた人達」とつい付け足してしまった。菅谷以外のクラスメイト達は私がE組に移動した理由を知らないけど、さっきの子達と何かあったと思わせるには十分な言い方だ。詳細を話す覚悟をしたけれど、前原くんはとても優しい声で「そっか」と言うだけだった。
「え、と……。移動しよっか!向こうに殺せんせーの暗殺に使えそうな道具を置いてるお店があったと思うんだ」
「えっマジ?行ってみよ!」
気まずい空気が流れてしまったのでそれを打破しようととっさに思いついた提案をした。こんな時に暗殺の話なんてって感じかもしれないけれど、今はこういう共通の話題があることに感謝した。
その後は空気も戻り楽しい時間を過ごした。そしてそんな時間程あっという間に過ぎ去る。日が落ちて暗くなり始めていた。中学生の私達はもう帰らないと。送ってくれるという前原くんにときめきながら、私達は並んで歩く。
「あのっ、前原くん、今日はありがとう。とっても楽しかった!」
「俺も。生駒さんとたくさん話せたし……ドタキャンしてくれた奴に感謝だなーなんて」
「わっ私も、前原くんとお友達には悪いと思ったけど、良かったなー、って……」
ちらりと伺いながら言ってみると前原くんは照れたように笑ってくれた。それにほっとして笑い返す。本当、連休最後にありがとう神様。そして他愛ない話をしている内に家の近くまで来てしまった。
「前原くん、もうすぐ家だからここまででいいよ。ありがとう」
「そう?じゃ、これを生駒さんに」
「手、出してみて」と言われたのでその通り両手を差し出してみる。するとそこに今日行った雑貨屋さんの紙袋が乗せられた。開けていいかと聞くと、家に着いてからのお楽しみとはぐらかされる。中身が気になりながらももう一度今日のお礼を言って、また明日学校でと別れた。
「っ、これ……!?」
帰宅してドキドキしながら袋を開けて、感極まって思わず涙が出てしまった。
貰った袋の中には、私が悩みに悩んでいたお花のヘアピンが入っていた。そしていったいいつの間に書いたのか、『今日は急な誘いにのってくれてありがとう!これはお礼デス。 前原』と短いメモ。二人で遊べただけで満足だったのに、もう本当嬉しくて、嬉しくて。
「(……明日、またお礼言わないと)」
勉強中とか関係なしに、明日さっそく着けて行っちゃおうかな。考えていた色違いの方は買わないつもり。だって貰ったものだけで十分過ぎるもん。
明日これを着けてお礼を言いに行ったら、前原くんはどんな顔をするだろう。
そんなことを考えて、夜は更けていった。