「これ、今日までだったんだ。思い出して良かったなー、生駒さん」
「うっ、うん!」
前原くんとテーブルを挟んで向かい合って座るのは何度目だろう。相も変わらず私はいっぱいいっぱいで、ついつい畏まっちゃっていた。
本日12月24日はクリスマスイブ。特に用事はなかったのだけど、キラキラ輝く街は見ているだけで楽しくって、散歩のつもりでふらりと出歩いてみたのだ。それで、とあるカフェの前を通った時、思い出したことがあった。以前あのカフェを勧めてくれたカエデちゃんが、何枚か貰ったからとその店で使える割引券のようなものを二枚程譲ってくれたっけ。財布からその券を取り出して見てみると、有効期限はちょうど今日までとなっていた。
使わないのはもったいないなと思い、菅谷や優月ちゃんと何人か友達を当たってみた。だけど、みんな予定があったらしく断られてしまった。急な誘いだったししょうがないよね。でも1人で行くのはちょっとなぁ。今日はクリスマスだし。残念だけど帰ろうとした時、前原くんと偶然出会った。それで少し話をして、カフェに付き合ってもらうことになったのだ。
「でも、前原くんは本当に良かったの?なにか予定があったりは……」
「全然!俺も暇してたし」
「そっか」
「生駒さんこそ大丈夫だった?」
「うん?大丈夫だよ?」
そう答えてから、そう言えば大丈夫って何を指してるんだろうと思い直し「なにが?」と聞き返そうとした。しかし、そこへ店員さんが注文したものを運んできてくれ、会話は途切れた。ケーキのセットがクリスマス仕様だ、美味しそう。そして戻る際にその店員さんは、にっこりと私達に向かって微笑んでから去って行った。目が合うと前原くんは照れ臭そうに肩を竦める。……そうだった。今日はカップル向けのサービスもしていたらしく、お店に入るなり恋人同士なのかどうか尋ねられたんだった。唐突な質問に驚いてなんと答えたらいいのかと困って固まっていると、前原くんが「そうです」って答えた。
大丈夫かって、恋人同士って?ついたことについてなのかな。それはもちろん、私としてはむしろ嬉しいことだし。だけど改めてそれを伝えるのは恥ずかしいので、赤くなる顔を誤魔化すようにカップに口を付けた。
「美味しかったな〜。さすが茅野のおすすめ」
「本当だね。前原くん、急なお誘いに乗ってくれてありがとう」
「どーいたしまして!」
ケーキとおしゃべりを堪能して私達はお店を出た。私と前原くんの手には、お店側からプレゼントとして貰ったアイシングクッキーがある。こちらもクリスマス仕様でかわいい。またお話をしながら、足はいつもの帰り道の方へ進んでいた。今日はこれでもう帰る感じかなあ。でも、もともと約束なんてしてなかったわけだし、こうして偶然会えてお茶できただけで満足。だけど……。
もう一回お礼を言って……と考えていると、前原くんが「うーん」と小さく唸った。
「ね、生駒さん」
「なぁに?」
「カップルのふり、明日まで有効ってことにしてもいい?」
「え?」
***
翌日の25日は、前原くんと夕方から会う約束をした。行き先は聞いていなかったから、どこへ行くんだろうとわくわくしながら前原くんと並んで歩く。そうして、街からは少し離れた先にあるイルミネーションスポットに到着した。あ、ここって雑誌とかにもよく載ってるところだっけ……。
「話には聞いたことあったけど、こんなにすごいイルミネーションだったんだね、ここ……!」
「だよな〜。やっぱこういうのは男友達と来てもなあって思ってさ」
「生駒さん誘っちゃった」と、悪戯っぽく笑う前原くんにつられてこちらも笑みを零してしまう。大きなクリスマスツリーがあったり道もキラキラと輝いていて、クリスマスの街並みとはまた少し違ってとっても綺麗。
「あ!生駒さん、こっち!」
「わっ!な、なに?」
ぼんやりとこの景色を眺めていると、突然前原くんが私の手を引っ張った。て、手繋いでる……!思わず赤くなりながら慌てて着いて行く。いったいどこへ行くんだろう?
「おーっ!やっぱりこっからだと更に綺麗に見えるな!」
「うんっ!」
数分後、私と前原くんは観覧車に乗っていた。ちょうどすぐ近くに大きな観覧車があるのを前原くんが見つけ、高いところからだときっともっとよく見えるからと手を引かれるがままに乗ったのだ。辺りのイルミネーションも街もすべて見渡せて、本当に最高の場所だ。なんて感動すると同時に、この密室空間に私の心臓はうるさいくらいに鳴っていた。す、すごく緊張する……!
ちらりと向かいに座る前原くんを窺うと、目が合ってにっこり返された。「綺麗だね」「うん」なんて他愛無い会話をする。お、落ち着いて落ち着いて……。
「あのっ、」
「ん?」
「えっと……来年もまた、こうやって一緒に見に来たいね」
勇気を振り絞って言ってみた。前原くんはちょっぴり驚いたように目を見開いて、それから頷いてくれた。少し顔が赤く染まっているように見えたのは、私の気のせいかな?
「でっ、でもそれならちゃんと殺せんせーを殺しとかねーとなー」
「あっほんとだ」
最終的に暗殺の話になるのが私と前原くんなのかも。観覧車が周りきるまで、私達は景色に魅入ったりぽつりぽつりとお話をして過ごした。