「おっ、叶ー!遅かったな!」
「ごめんっ!お待たせ……」
「ん。大丈夫か?山登り結構きつかったろ」
「う、うん。案外ね」
山道を登ってようやく旧校舎に到着した。校舎の前では菅谷が待ってくれていた。思ったより大変だった山登りに荒く息をする私に、菅谷は笑いながら「お疲れさん」と背中をポンポン叩いた。落ち着いてからは菅谷の後について校舎へ入っていく。噂に聞いていた通り、後者は古い木造建築の建物で周りには森が広がっているだけ。きっと夏とか冬とかに過ごしやすいのは本校舎だろうけど、私は好きだな、ここ……。
「遅くなっちゃってごめんね。みんなもう帰っちゃったかな」
「何人かはなー。でも結構残ってるぜ」
「みんな叶に会うの楽しみにしてる」と菅谷は廊下を歩きながらのんびりと言う。うわわ……緊張してきた。元A組であることがここではかえっておかしく思われたりしないだろうか。菅谷が教室の扉に手をかける。私はひとつ深呼吸をした。
「おー、叶連れて来たぜー」
どぎまぎしながら菅谷の後ろにくっついていく。教室にはクラスの半分くらいの人が残っていて、あちこちから視線が集まるのを感じた。教室を見渡してみるが、他に知っている人はいないよう。一応、自己紹介とか簡単にした方が良いのかな。なんて考えていると、一人の女の子がこちらへ近付いてた。長い髪をひとつに束ねていて、動きや佇まいがシュッとしてて、女の子だけどなんだかかっこいい子だ。彼女は目が合うとにこりと微笑んだ。
「初めまして生駒さん。私、E組の学級委員長になった片岡メグです」
「こ、こちらこそ初めまして。生駒叶です」
片岡さんは委員長なのか。しっかりしていそうだしぴったりだ。それで、片岡さんとの会話が何かきっかけになったのか、他の女の子達も集まってきた。
「生駒さんがE組来るって本当だったんだ!」
「ねねっ、生駒さんって、あの?テストでいっつも五番以内にいる!」
「う、うん。そう、かな?」
「でもA組の生駒さんがどうしてE組に?」
「えと、それは……」
「やめなよ。E組行きの理由なんて進んで話したいものじゃないでしょ」
「あっ、そうだよね……。ごめんね?」
いろいろと一気に聞かれて私はただわたわたしていた。謝ってきた子には慌てて「大丈夫だ」と返す。今まで過剰なまでに持ち上げられる友人関係が多かったせいか、対等な感じに話しかけられるこの状態が、新鮮であると同時にすごく安心した。ちらりと菅谷を見ると、「大丈夫だったろ?」とでも言うように口角を上げた。
「そうだ、担任の先生ってまだいらっしゃるかな?」
「それが先生最近忙しいみたいで、ホームルームが終わったらすぐに出ちゃったの。本校舎へ寄って行くって言ってたけど、入れ違いになったみたいね」
「そうなんだ……。ご挨拶しておきたかったんだけど」
「先生も今日生駒さんに会えなくて残念がってたよ〜」
せっかく来たのだし少しお話でもしたかったのだけど、忙しいのなら仕方ないや。新学期が始まったらまたしっかり挨拶しよう。どんな先生?と聞くと、「優しくてとても熱心な良い先生」とみんな声を揃えて言う。その話に更に先生に会うのが楽しみになった。
「生駒さんが来るから女子の座席調整あったんだけど、もう教えておいた方が良いかな?」
「あ、うん。お願いします」
「こっちだよ!窓際の後ろから二番目」
えっと……矢田さん、が、私の席まで連れて行ってくれた。窓側は外の景色がよく見える。ラッキーな席だってこっそり思った。後ろの席には誰もいないみたいだけど、前は不破さんという子だった。「よろしくね」と笑顔を向けてくれて、ほっと安心した。
「隣は俺な」
「本当?良かった」
隣は誰だろうと見ていると、菅谷が椅子を引いて座った。隣は男子の列だから知っている人の方が安心するよ。そしたら、「生駒さん」と片岡さんに呼ばれる。
「時間まだ大丈夫?座席票とかに名前書いてもらいたいんだけど」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとう。でもごめん、もうちょっと待ってね。今、磯貝君が取りに行ってるんだけど――」
磯貝くんって?と不破さんに聞くと、もう一人の学級委員長だと教えてくれた。出席簿とか日誌は一度教員室へ戻してしまったから取りに行ってるそうだ。「あ、来た」との片岡さんの声につられて扉の方に目を向けようとしたが、菅谷にくいと引っ張られる。
「来たぞ。叶にとって“すっげー嬉しいクラス”の理由」
「え?――っ!」
そうこっそりと耳打ちされ、改めて顔を上げて今教室へ入って来た人を見てみる。そして、そこにいるのが誰なのか気づき、私は驚いて目を見開いた。
「ま、前原くん……!?」
小さく叫んだ私に菅谷はにいっと口角を上げた。