集会の時間

「カルマくん、本校舎行かないの?」
「サボるに決まってんじゃんあんな集会。一緒にどう?」
「……ううん。だってサボったら負けたみたいじゃない」
生駒さんって何気に負けず嫌いだよね〜」

 「じゃあ頑張って」と言ってジュース片手にどこかへ行くカルマくんを見送り、私は矢田さんや片岡さんの待つところへ急いだ。

 本日のE組はみんなどこか憂鬱気。それもそのはずだ。今日は月に一度の全校集会の日なんだもの。今から本校舎に――学校中から差別されてる私達にとってはかなりアウェイな場所に赴かなければならない。足取りは重いけれど、少しだけでも楽しい時間が続くよう、私達はおしゃべりしながら山を降りた。
 体育館にはすでに本校舎の生徒達が集まっていた。わいわいと賑やかな中に私達E組が入って行くと軽蔑の笑いが広がっていった。よくもまあ、あんなに醜い自分を曝け出せるものだ。……私があのままA組にいたら、E組のみんなに対してどのような対応をしただろう。ふとそんなことを思い、ひとつ溜め息を吐く。それから定位置で出席番号順に並び、気の重いこの時間が早く終わるのを待った。

『続いて生徒会からの発表です。生徒会は準備を始めて下さい』

 校長先生のくだらない一言と全校生徒の馬鹿にした笑いを聞き流し、アナウンスの通り生徒会が準備をするのを待っていると体育館の扉が開いた。烏間先生だ。表向きは先生がE組の担任ってことになっているから顔見せに来たのだろう。その次にイリーナ先生が入ってきた。たちまち他のクラスから騒めきが大きくなる。ああ、確かに烏間先生は格好いいしイリーナ先生はすごく美人だもんね。

『…はいっ。今皆さんに配ったプリントが生徒会行事の詳細です』

 烏間先生とイリーナ先生に気を取られている間に生徒会の準備は終わったようだ。……って、あれ?私プリント貰ってないよ。というか……どうやらE組だけには回されていないようだ。

「…すいません。E組の分まだなんですが」
「え、無い?おかしーな…」
『ごめんなさーい。3Eの分忘れたみたい。すいませんけど全部記憶して帰って下さーい』

 荒木くんの言葉に体育館中がどっと沸いた。先生方まで笑ってる。……なんて、陰湿。荒木くん同じクラスの時は優しかったのに。下卑た笑みを向ける生徒達、俯いて耐えるしかないE組のみんな。なんとも言えない怒りが込み上げてきた。
 ステージ上に目を遣ると荒木くんと目が合い、はっとした表情になった。私はにこりと笑顔を作ってみせる。

「荒木くん、忘れたのなら仕方が無いよ、謝らないで?E組の分は私が全部覚えて帰るから大丈夫。だけどいくら隔離されてるとはいえ自分の学校のクラスの数も覚えられないなんて、荒木くんの記憶力もたいしたことないね。A組なのに!」

 できる限り声を張り上げてわざと驚いたように言うと、荒木くんは酷くショックを受けたような顔になった。周りの生徒達は一瞬ぽかんと呆けた後、「ふ、ふざけんなE組の分際で!」とか「調子に乗るな!」とかいつもどおりの抗議をしてきた。私は気にせずふぅと溜め息をつきそっぽを向いた。

「あーあ、また挑発して」
生駒さんって結構喧嘩っ早いよね……」

 E組のみんなにびっくりされたり苦笑されたりしていると、私達の横を突風が通り過ぎた。ひらりと舞う紙が重力に従い落ちる前に受け止める。それは、『生徒会だより』と書かれた手書きのプリントだった。

「磯貝くん。問題無いようですねぇ。手書きのコピーが全員分あるようですし。生駒さんに負担を掛ける必要もありませんね」

 いつの間にか烏間先生とイリーナ先生の間にかいた殺せんせーが、ペンをくるくる回しながら言った。目が合うとひらひらと触手を振ってくる。ホッとしたけど……国家機密のせんせーがここへ来てていいのかな。大きいし目立つと思うんだけど。なんて眺めていると、イリーナ先生が殺せんせーを刺そうとさり気なくナイフを出していた。それからすぐ烏間先生に叱られて体育館の外へと連れて行かれる。

「はは、しょーがねーなビッチ先生は」

 あはは、と今度はE組だけから笑い声があがる。それにつられるように私もつい、作り物じゃない笑みを浮かべてしまうのだった。


****


生駒さん」

 集会が終わった後、せっかく本校舎に来たからこっちでしか買えないジュースを買っていこうと自販機に立ち寄った。ピッとボタンを押して落ちてきたジュースを取っていると声を掛けられた。振り返ると荒木くん、榊原くん、瀬尾くん、小山くん……浅野くん以外の以前仲良くしていたみんながいた。「久しぶり」と笑えば気まずそうな返事が返る。

「荒木くん、さっきはごめんなさい。私の早とちりだったね」
「いや……」
生駒、ホントいつまであんなとこいる気なんだよ」

 荒木くんに集会でのことについて謝罪を入れていると、瀬尾くんが割って入ってきた。もう何度も言われた言葉に困って眉を下げるしかない。

「浅野くんや榊原くんから聞いてないかな。私、A組に戻るつもりなんてないよ」
「いや、君は僕達のところへ戻るべきだよ。今日の集会で確信した。E組は君の性格まで変えてしまうようじゃないか?」
「……私もともとこんな感じなんだけどな」

 そう言えばA組に居た頃は、多少私が負けず嫌いなことはみんな知ってただろうけど、あんな風に挑発じみたことを言ったことはなかった。心底驚いた顔をされる。今はE組が始まって間もないからまだまだだけど、どんどん素の自分が出せるようになってきている気がするんだ。

「……だが、どちらにしろ生駒さんなら次の中間でA組に戻れるんじゃないのかい?」
「んー…浅野くんに言った手前、順位は落とさないようにするつもりだよ。……だけど、やっぱり戻りはしないかな」

 中間テストの結果は恐らく小山くんの言った通りになるだろう。今じゃ殺せんせーのお陰で更に良い点を取れそうな気がするし。だけど、私の決意は変わらない。納得いかない様子のみんなに少しだけ申し訳なくなる。いろんなことがあったA組でも、テストの順位が近い浅野くん始め彼らはとても良くしてくれていたから。友達、だったんだとは思う。

「……生駒さんは、僕達よりもE組なんかが」
ー」

 榊原くんの言葉は菅谷の私を呼ぶ声に遮られた。振り返ってみると、急げとちょいちょい手招きされる。いけない、結構時間経っちゃってたかな。

「ごめんっ、私行くね」
生駒!」
「……?」
「……俺達、諦めねぇからな」

 私を呼び止めた瀬尾くんがこう言うと、他のみんなも力強く頷いた。どうして彼らは、E組『なんか』に落ちた私を見限ってくれないのだろう。なんと返すか困ってしまい、「ばいばい」と四人に苦笑を向けた。

「お待たせっ」
「おー。……大丈夫だったか?」
「なんとも無いよ。……それより菅谷、私ってE組来てから変わったと思う?」

 隣に並んだ菅谷を見上げる。「性格的な意味で?」と聞かれ頷くと、菅谷は少し考えてから口を開いた。

「別に変わってねーと思うけど?ただ……」
「ただ?」
「今のがのびのびしてるカンジ」
「……そっか」

 ぽんぽんと頭を軽く撫でられる。私と菅谷は急いで旧校舎へ戻った。