修学旅行2日目の時間

 修学旅行二日目。今日は班ごとに自由行動で、それぞれ計画した観光名所へ行く。私達二班が向かうのは、映画村だ。プロの殺し屋と協力して殺せんせーを暗殺するのは、そこで行われるチャンバラショーの時。それまでは暗殺なしの自由時間だ。到着してすぐ私達が行ったのは……

「ここっ、扮装館!!」

 映画村のマップを完全に頭に叩き込んだという不破さんに案内され、やって来たのは『扮装館』。その名の通り、本格的に時代劇の扮装ができる所だ。予約はしておいたので早速中に入る。扮装できる何十種類もの衣装がずらりと並んでいた。三村くんと中村さんがスタッフさんに予約していた旨を伝えてくれているので、私達はきょろきょろと辺りを見渡しながら待つ。ええと、その、思ってはいたけど菅谷と不破さんのテンションがすごいの。

「やっぱり女子ってこーいうの好きだよな」
「うーん、菅谷も」
「菅谷も好きよねああいうの」

 展示されている衣装などにすごく興奮した様子で話しをしてる菅谷と不破さん。それを少し離れたところで見ながら、千葉くんと速水さんが呆れたように笑った。
 そんなこんなでスタッフさんとの話が通り、私達は奥へ進んだ。着替えがあるので途中で男女に別れた。それぞれどの衣装を着るかは合流した時のお楽しみ。私達女の子は、女性スタッフさんの後に続いた。

「ではまず、こちらから扮装したい衣装をお選びください」
「はいはーい!私は舞妓!京都といったらやっぱりこれだよね〜」
「あー不破ちゃん似合いそうね。凛香は芸者にしたら?」
「……そういう莉桜はどれにするの?」
「んーあたし花魁とかやってみたいなー」
「私どうしようかな……」

 たくさん衣装があって、どれも凄く気になる。悩んでいると不破さんがにこりと笑った。

生駒さんはやっぱこれだよ〜」
「??」





は姫さんかー」

 数十分かけて扮装が完了した順に、更に奥のスタジオへ一旦通された。そこで、すでに出来上がっていたらしい男の子達と合流する。菅谷はすごく楽しそうな様子で私の衣装や髪飾りをまじまじと眺めた。ちなみに菅谷の格好は新撰組で、よく似合っている。

「花魁とかで来られたらどうしようかと思ったけど」
「花魁の衣装は散策できないんだって。中村さんが残念がってたよ」
「いやぁー花魁姿の生駒さんもぜひ拝みたかった!そんで吉原通りとかあるからそこで吉原ごっこをと……」
「え、えっと……」
「こーらそこのエロ忍者。うちの姫様に手ェ出したら打ち首よ」
「うわっ!?中村渋っ!すげー似合ってる!」
「ありがと」

 忍者に扮装した岡島くんが物凄く楽しげな様子でそう言った。よ、吉原ごっこって何するの?と思っていると、奥方風御台所に扮した中村さんがオプションの扇を指しながら言った。本当によく似合っていて格好いい。「すごく綺麗だね」と言うと、照れたように笑った。
 それから後のみんなとも合流した。千葉くんは坂本龍馬、三村くんはお殿様。不破さんと速水さんはさっき話してた通り、舞妓さんと芸者さんだ。スタジオでは記念撮影ができるらしい。修学旅行生サービスのようなものがあるらしく、八人揃っての写真と値段も少し安くしてもらえた。

「さーて次は映画村散策行ってみよー!」
「おー」

 予約する際、写真撮影だけじゃ勿体無い気がするからと、扮装したまま映画村散策もできるコースを選んでいた。この格好のまま一時間自由に散策できるのだ。スタッフさんから注意事項を聞き、私達は館の外へ出た。

「三村、生駒ちゃんと並びなよ。お姫様の隣はお殿様でしょ」
「お、おお!?」
「じゃあ、新撰組とか坂本龍馬の隣は舞妓さんとか芸者さんかな?」
「ああ、副長様お戯れを!」
「良いではないか良いではないか?」
「菅谷それ悪代官よ」
「しっかし中村は貫禄あるっつーかマジ似合うな」
「ふふん。岡島、アンタをあたしの専属忍者にしてやっても良いわよ?」
「有り難き幸せ!」

 そんな風に時代劇ごっこをしてみたり、いろいろな場所で写真を撮りながら私達は映画村を回った。





「殺せんせー!こっちこっち!」
「嵯峨野トロッコ列車どうでした?」
「ヌルフフフ、眺めも良く素敵なところでしたよ。二班は映画村ですか。ここも楽しそうですねぇ」

 制服に着替え直してから、11時頃に殺せんせーと合流した。中村さん達がせんせーに扮装姿で撮った写真を見せるのを眺めながら、殺せんせーがさっきまでいた一班は前原くんの班かぁ……、とぼんやり思う。
 すると、千葉くんが「一班は暗殺失敗だったみたいだな」とこっそり耳打ちしてきた。そう言えば、そうだ。私達はこの班ごとの自由時間の時に殺し屋と打ち合わせして暗殺の計画をしている。こうして私達のところへ来たということは、一班の計画は失敗したということだ。次は私達の番。ただ楽しんでいた先程までとは異なり、少しだけ緊張が走った。

「そのままおとなしく去るがよい。拙者無益な殺生は好まないでござるよ」
「うぬぅ、言わせておけば…」
「おいてめェら!!やっちまえ!!」

 時間になったのでチャンバラショーの行われる場所へ移動した。時代劇の衣装に扮装した俳優さん達のショーが始まる。不破さんがキラキラした目で「どっかで見たことある侍ね…」と呟いていたけど、なんのことか私はよくわからない。それは置いておいて、俳優さんの動きや刀の速さなど、近くで見ているから余計にすごい迫力だ。殺せんせーはやはりこういう殺陣が好きらしく、感心したように見ていた。

「悪い奴優勢だ!!やばいこっち来た!」

 派手な動きのショーは見物客の方まで立ち回ってくる。それから逃げようとしている時、中村さんがちらりと視線を向こうへ遣った。今この瞬間も殺し屋が殺せんせーを狙っている筈。上手くいくかな……。

「あ、あれ、殺せんせーは?」
「え……?」

 岡島くんの声に振り返る。すぐ隣にいたはずの殺せんせーは、いつの間にか着替えを済ませて俳優さん達に混ざって殺陣に参加していた。な、なにやってるんですか……!「助太刀いたす。悪党どもに咲く徒花は血桜のみぞ」台詞もバッチリ決まってますけど!

「これ……動く側になったら狙い難いんじゃないの……?」
「ああ。たぶん、な」
「ってーことは……」

 私達の暗殺計画は失敗、か……。敢えて誰も口に出さなかったけれど、きっとそうだと理解できた。私達はぽかんと呆気に取られながら、もはや殺せんせーが主役になりつつあるショーを見るのだった。


****


 二日目の午後の日程も無事に終わり、私達は宿泊している旅館に戻った。E組だからといういつもの理由で旅館は少しばかり古いところ。寝室も男女それぞれ大部屋二室にまとめられるということで不満そうな人もいたけれど、他のクラスみたく個室じゃあせっかくの修学旅行なのにつまらないと思うんだ。イリーナ先生も同じ部屋で寝るって言ってたし、みんなともっと仲良くなる良い機会だから私としてはすごく嬉しい部屋割りだなぁ。

「あれ?ねえ速水さん、中村さんと不破さんは?」
「覗きしに行ったよ」
「……え?」

 『覗き』という言葉に二人がいったい何をしに行ったのかいまいちピンと来ず首を傾ぐ。そんな私に苦笑しながら速水さんは口を開いたけど、それを遮るように部屋の戸が引かれた。他の子達の目もそちらに向けられる。ちょうど話に出ていた中村さんと不破さんが、なぜかちょっぴりがっかりした様子で入ってきた。

「おかえりなさい。どこ行ってたの?」
「お風呂場。殺せんせーの中身見れるかなって、覗きに行ってたんだ〜」

 不破さんが私の隣に腰を降ろしながら説明した。これで合点がいった。なるほど、覗きって殺せんせーのお風呂のことだったのか。確かに触手を持った殺せんせーの服の下がどうなっているのか、気になるかもしれない。

「それで、どうだった?」
「どうもこうも逃げられちゃって結局確かめられずよ。ー慰めてー」
「っ……!う、うん」
「?どうしたの?」
「え、えっと、急に名前で呼ばれたからびっくりしちゃって……」

 はあぁと溜め息をついて抱き着いてくる中村さんに驚きを隠せなかった。だって本当に、学校で私のことを名前で呼ぶ人なんて菅谷くらいなんだもん。本校舎に居た頃だって、みんな『生駒さん』って名字で呼んでいた。

「あー、菅谷が言ってるから移っちゃったのよね。嫌?」
「ううん!むしろ、名前呼びの方がいいな」
「確かに、そろそろもう少し親し気に呼び合っても良い頃だよね」
「メグ」

 片岡さん……じゃなくて、メグ、ちゃん?が話に加わり他のみんなも賛同しながら集まる。そんなわけで、そろそろ名字よりも名前とかあだ名とか、くだけた感じに好きに呼び合おっか、という流れになった。なんだかみんなとどんどん仲良くなっている感じがして、すごく嬉しい。

「はいはい!ちゃんに質問!」
「なぁに?陽菜乃ちゃん」
ちゃんと菅谷君って、やっぱり付き合ってるの!?」

 きらきら輝くような表情で聞いてきた陽菜乃ちゃんの質問に、みんな興味津々な様子で私を見つめる。それが事実か否か知ってるはずの不破さ……優月ちゃんは、「やっぱそう思うよねえ!」となぜだか嬉しそうに頷いていた。

「ちっ、ちがっ!付き合ってないよ!」
「えーっほんと?すっごく仲良いじゃん!」
生駒さんがあんなによくしゃべる男子って、菅谷君くらいだしねぇ」
「菅谷君はちゃんの一番仲良しなんだって〜」

 優月ちゃんが横からそう言うと、みんな「へえぇー」と、だけどやっぱりどこか納得いっていないような反応をした。……うぅん、私と菅谷ってそんなに付き合っているみたいに見えるのかな……?考え込んでいると、「じゃあ、」と岡野さん。

生駒さんは今好きな人っているの?」
「………っ!!」
「その反応、いるのね?」
「あら面白そうな話してるじゃない」
「あ、ビッチ先生ー」
ちゃんの好きな人の話!」

 次の質問に反射的に赤面してしまった。なかむ……莉桜ちゃんの目がキラリと光る。そこへ、ビールの缶片手のイリーナ先生も加わってしまった。こ、これってもしかして逃げられない……!?しどろもどろなりながら「い、いない、よ?」と言ってみても、私のさっきの反応からすぐに嘘だとバレてしまう。本当に逃げ場がなくなり、私はついに打ち明けることにした。

「男の子達には、秘密だよ……?」
「うん!絶対言わない!」
「誰だれ!?」
「えっと、その……………ま、前原くん、です」

 言ってしまってから、また顔に熱が集まるのを感じた。ちょっと予想したような反応が返ってこず、不思議に思って顔をあげる。ほとんどの子が意外そうな驚いた顔をしていた。

「あの……?」
「あっ、ううん、ちょっと意外だなって思って」
「そうかな……?」

「そっか前原かー…。応援したいけどあのチャラ男にをやるのは癪だわ」
「磯貝の方だったらまだ……でも、うーーん……」
「菅谷君も可能性ナシじゃないよね?」

 意外……なのかな?と思っていると、数人がなにやらこそこそ話しているのが視界に入る。きょとんとしていると、「生駒さんは大事なクラスメイトだからさ」と岡野さん。なんの話からそう繋がったのかわからなくて首を捻る。

「でもま、みんなで応援するよ」
「本当?ありがとう、岡野さん」

 いきなりクラスの女の子みんなにバレるのは複雑だけど……心強いかもしれない。岡野さんにお礼を言うと、照れくさそうにはにかんだ。それから、首に腕が回されて背中に重みを感じる。仄かに頬を赤くさせたイリーナ先生だった。

に好きなオトコねえ……。私が男をオトすヤリ方教えてあげるわよ?」
「イ、イリーナ先生酔ってます?」
「ビッチせんせー、ちゃんがビッチ先生みたいなテク繰り広げ出したら私達も前原君もびっくりだよ」
「でも、そのギャップが意外と良い方に転んだりしてー」
「こら。面白がらないの」

 上機嫌な様子のイリーナ先生は、ちゅっと私の頬にキスをしてそのまま抱き締めてきた。うぅ……先生のスキンシップにも少し慣れてきたとはいえ、まだちょっと恥ずかしい。楽しそうな莉桜ちゃんをメグちゃんが嗜める。う、うーん、イリーナ先生のテクニックは私には上級者向け過ぎて出来ないよ……!
 それから、みんなで買ったお土産なんかを広げ、このまま寝るまでおしゃべりする流れになった。恋話といってもみんなは今は特定の好きな人はいないらしく(あ、陽菜乃ちゃんは烏間先生が好きみたいに言ってた。)、代わりに昔好きだった人の話とかで盛り上がった。