修学旅行最終日の時間

「修学旅行とはいえ、やっぱショッピングもちょっとはしたいわよね〜」
「まあ、せっかく時間余ったわけだしな」

 修学旅行もついに最終日。私達は今日は京都市内の中心部の方に来ていた。

 本当なら今日のこの時間も殺せんせーの暗殺を念頭に置いた自由行動の時間で、お寺を回ってそこで決行する予定だった。だけど昨夜烏間先生に知らされたのだが、今回の殺せんせーの暗殺任務を引き受けた唯一の暗殺者が昨日の段階で降りてしまったらしく、今日の暗殺計画は中止となってしまったのだ。
 殺せんせーの付き添いのもとお寺観光はもう済ませた。あとは帰りの新幹線の時間まで自由行動。烏間先生には申し訳ないけれど、暗殺を考えなくていいのが少し嬉しくって、私達は本来の予定をちょっと弄ってお買い物に来たわけだ。

「それにしても京都も人多いなあ」
「観光スポットもだけど、こっちも相当だよねー。あ、信号変わったよー」

 みんなでそれぞれ行ってみたいところを挙げて、時間の許す限り順番に回ってみることにした。とりあえず、向こう側に渡るために信号待ちをする。そして赤から青に変わったので進もうとしたのだけ、ど……!こちらからと向こうから、信横断歩道を渡る人がすごい数。ちょっとよそ見していただけなのに、人混みに流されてあっという間にみんなとはぐれてしまった!人の波に押されるように進んで、ようやく足を止められた頃にはみんなの姿が見えなくなってしまっていた。

「ど、どうしよう……!」

 焦りながら辺りを見回しても同じ制服は見つけられない。ええと、次はどこへ行くんだっけ?ついさっき決まった上に私は京都の地理に明るくないから、わ、わかんないよ……!そうだ電話。駄目だ、昨日の夜にした充電が不十分だったから、菅谷にモバイルバッテリーを借りて預けたんだった。

生駒さん……?」
生駒?なにやってんだ、こんなとこで」

 探すべきか留まるべきか、迷ってうろうろしていると声をかけられた。知ってる人!安堵感を抱きながら振り返ると、浅野くんに瀬尾くんに榊原くんに……つまり、A組のいつもの五人が驚いた顔をしていた。菅谷達でなかったとはいえ、この不慣れな土地でひとりになっていたところへ知り合いに出会えたので一先ずホッと息をつく。駆け寄ってきた浅野くんが「どうしたんだい?」と心配そうに問うてきた。

「えっと、班の子達とはぐれちゃったみたいで……」
「もしかして迷子ってこと?」
「……………うん」

 かあっと赤くなった顔を背ける。うあぁ、恥ずかしい……。みんな意外そうな顔でポカンとしていた。わ、笑ったの見たからね、瀬尾くんっ!

生駒さん、ケータイは?」
「友達に預けてるの……」
「そうか……。それじゃあ、先生のケータイの番号はわかる?」
「うん」
「大丈夫だよ、生駒さん。僕達がついてる」

 荒木くんが自分のケータイを取り出してくれた。その隣で、浅野くんが安心させるように微笑みながらこう言う。私そんなに不安気な顔してたのかな……。ありがとうと言って、荒木くんに番号を伝えようとした。殺せんせーのを言うわけにはいかないから、烏間先生の方だよね。だけど番号を言う前に、ぱしんと手を掴まれた。

生駒さん、見つけた!」
「!えっ、わっ前原くん!」

 びっくりして振り返ると、そこにいたのは前原くんだった。あがっていた息を整えながら「良かった〜」と笑う。それから私と一緒にいたみんなに気づくと一緒嫌そうに顔を歪める。だけど、またすぐ私の方を見て笑顔になった。

「あの、どうして前原くんが……?」
「俺達もこっち来ててさ、さっき二班の奴らから生駒さんがいなくなったーって聞いて。みんなで捜してたんだ」
「あー……ごめんなさい、迷惑かけて」
「気にしなくていいって!近くにいてよかった。みんな待ってるから行こーぜ」
「わっ!」

 掴まれていた手を引かれ、慌てて足を進める。それから振り返った浅野くん達に「もう大丈夫みたい。ありがとう!」と急いで叫んだ。みんなはなんだか険しい顔をしていたけれど、すぐに笑って手を振ってくれた。

生駒さん、今の奴らってさ……」
「うん?A組の友達だよ」
「あん中に生駒さんの好きな人いんの?」
「ええっ!?違うよ!?」

 な、なんで急にそんな話に!?つい声が上ずったけれど、前原くんは気にすることなく「そっか〜」と笑っていた。い、磯貝くんといい前原くんといい、どうして突然私の好きな人を聞いてくるんだろう……。後で菅谷に聞いてみようかな。
 そんなことを考えていると、前原くんが前方に向かって手を振った。見ると、一班と二班のメンバーが揃っている。良かった、合流できて。ほっとしていると、みんなの視線が私の手首を握っている前原くんの手に注目されていた。途端に顔が赤らむのを感じる。だけど、次の瞬間にはもうその手は離されてしまった。

!!どこ行ってたんだよったく……」
「ご、ごめんなさい……。みんなも、迷惑かけちゃって……」
「気にしないで生駒さん。本格的に迷子になる前に合流できてよかったよ」

 安心したように長い溜め息を吐く菅谷からケータイを返してもらい、みんなに謝る。メグちゃん始め、みんな気にするなと言ってくれた。……桃花ちゃんと莉桜ちゃんは「良いことあったみたいだしねぇ?」なんて言って茶化してきたけれど。

「ねっ、ちゃん。このまま一班と二班で一緒に回らないかって話になったんだけど、どう?」
「みんなで?」
「そーそー。もう一、二時間もすれば集合の時間だしさ」

 なるほど。観光名所には行ってしまったので、街をぶらぶらしようと考えているのは向こうの班も同じなようだ。それならこのまま一緒に回って、それから集合場所へ移動するのがいいのかも?大人数で楽しそう。……決して、前原くんがいるからという理由だけでなく。

「うんっ、いいと思うよ。みんなで行こう」
「ん、わかった。おーい、生駒さんも賛成だって」

 磯貝くんがみんなに声をかけて、このままふた班合同でお買い物などに行くことになった。ちらりと前を歩く前原くんを見る。修学旅行に来る前は、同じ班になれなくて残念だなぁって思ってたけど……。

「(最後にこうして一緒に回れて良かったなぁ)」

 ついつい頬が緩んでしまうのだった。