映画の時間

ー、帰ろーぜ」
「殺せんせーにノート提出してくるから、ちょっと待ってて!」

 梅雨の合間の晴れの日、いつものように授業を受けて暗殺の訓練も終えたある放課後のこと。帰り支度の済んだ菅谷には少し待ってもらい、私は提出用のノートを持って殺せんせーがいる教卓へ向かった。殺せんせーはご機嫌な様子で雑誌を捲っている。どうしたんだろう?なんて思っていると、前を通りかかった磯貝くんが銃を撃ちながら「このあと何かあるの?」と殺せんせーに尋ねた。

「ええ。ハワイまで映画を見に行くんですよ。先にアメリカで公開するので楽しみにしていたんです」
「うそぉ。ずるーい先生」
「ヌルフフフ。マッハ20はこういう時のためにこそ使うのです」

 「なんの映画?」と莉桜ちゃんが聞くと、殺せんせーは読んでいた雑誌を開いてみせた。私も気になるので、メグちゃんと磯貝くんの間から覗いてみる。殺せんせーが観に行こうとしている映画は『ソニックニンジャ』というヒーロー物。続編らしい。前作は去年か一昨年かにやってたんだっけ?よく覚えてないや。

「『ソニックニンジャ』かー。あれ続き気になってたんだよな」
「あたしもー。いいなー殺せんせー」
「言えば連れて行ってくれたんじゃない?」

 殺せんせーにノートを提出して菅谷と教室を出ると靴箱のところで前原くん、磯貝くん、莉桜ちゃん、メグちゃんと一緒になった。みんなその映画を観たことがあるらしく、前作の話で盛り上がっている。へえ、そんなに面白いんだ。私も観たらよかったかなぁ。ぼんやり思いながら靴を履き替えていると、四人の会話に参加していた菅谷がふとこちらを振り返った。

は?『ソニックニンジャ』観たっけ?」
「ううん、観てないの」
「ええっ!?、観てないの!?」

 莉桜ちゃんはびっくりした顔をして私の肩に腕を回し、「あれ、おっもしろいわよー!」とオススメしてくる。前原くんや磯貝くん達もうんうんと力強く頷いた。そ、そうなんだ。なんだか観たくなってきちゃった。DVD借りて帰ろうかな……?

「じゃあさー、前作のDVD借りてみんなで観ねー?」
「みんなでって……これからか?」

 みんなの話を聞きながら一緒に山を降りて行ってると、前原くんがこんな提案をした。私が思ってたこととちょっとシンクロしたみたいでドキッとする。

「暇だったらな!磯貝、菅谷どーよ?」
「俺は賛成ー」
「俺も今日は大丈夫だけど……」
「あたしもっ!と片岡ちゃんはー?」
「私も大丈夫っ!」
「私も平気。でも、誰の家で観るの?」

 「私の家はちょっと無理だよ」とメグちゃんが言えば、他のみんなも口篭ってしまった。家の事情もあるようだけど、聞けばみんなE組になった頃からあまり家に友達を呼ばないようにしているらしい。その友達が同じE組の子だったら、親の目が一層厳しくなるからだそう。やっぱり止めようか、そんな話も出始めたので私は思い切って手をあげた。

「あのっ、私の家、大丈夫だよ」

 他に友達を呼ぶのは久々で、しかもメンバーがメンバーなだけにちょっとドキドキしつつ提案してみた。莉桜ちゃんと前原くんはキラリと目を輝かせ、菅谷は「あーいいかもな」とのんびり同意する。彼らと反対に心配そうな表情をするのは委員長コンビだった。

「えつ、でも……生駒さん本当に大丈夫?」
「うん!」

 それから一度二手に別れてDVDを借りたりコンビニでお菓子を買いに行き、また落ち合ってから私の家へ向かった。昨日掃除しておいてよかった!なんて思いながら鍵を開けてみんなを中へと招く。

「お邪魔しまーす!」
「中村、リビングあっちだぜ」
「詳しいな菅谷」
「何回か来たことあっから」

 何度かうちに来たことのある菅谷に案内を任せ、私は玄関を閉めて鍵をいつもの場所置く。それから、まだ少し心配そうな顔の二人に思わずくすりと笑った。

「メグちゃん磯貝くん、そんなに気にしないで?私がちゃんと勉強してたら両親はなにも言わないんだから」
「そう……?じゃあ、ありがとう」
「いえいえ」

 やっと安心してくれたメグちゃんと磯貝くんを案内する。リビングでは先に行った菅谷達がすでに寛いでいた。

「おばさん今日はいねーの?」
「昨夜からお父さんのとこ行ったんだー」
生駒さんのお父さん、出張かなにか?」
「今、単身赴任中なの」

 鞄とジャケットを隅に置きながら菅谷と磯貝くんに答える。うちの両親は仲が良く、母は単身赴任中の父のところへしょっちゅう行くのだ。だから、私が一人暮らしのような生活をすることも多かったり。「そうなんだ、大変ね」とメグちゃんは言うけどこんなことはもう慣れっこだし、今では一人の時は菅谷が家に寄って行ったり殺せんせーもたまに様子を見に来てくれるから心配はない。それに、優月ちゃんとかE組の友達と電話やメールをするから寂しくもない。そう言うとメグちゃんは頷いて、今度は安心したようにふわりと笑った。優しいなぁメグちゃん。

「さー、さっそく観ましょ!」
生駒さん、テレビ勝手に点けてもいい?」
「うん、いいよ。私飲み物とか取って来るね。菅谷手伝って」
「おー……あ、いや俺家に連絡いれねーといけねーから、前原頼むわ」
「え、俺?いーけど」

 キッチンの方へ向かいながらちょいちょいと菅谷に手招きをしたのだけど、菅谷はポケットからケータイを取り出しながら前原くんの方をポンと叩いた。なんだか無理やりな感じのある振りにも気にすることなく、前原くんは「どれ持ってったらいい?」なんて言いながらこちらに来てくれる。にこにこと笑顔を向けてくる菅谷とメグちゃんと莉桜ちゃんに一言言いたいところだけど、磯貝くんもこちらを見ているので気にしないことにして冷蔵庫を開けた。

「えっと、お茶とジュースとコップ六つと……お皿いるかな?」
「あー、大きいのある?それに買ったやつ全部いれるかー」
「わかった。じゃあ、前原くんはお皿お願いします」
「りょーかい!」

 大きめのお皿は下の食器棚にあるので、屈んでそれを取り出す。二枚あった方がいいかな?取り出したお皿を前原くんに渡す時、そっとだけど手が重なった。たったそれだけのことなのに、つい過剰に反応してしまう。だけど前原くんの方は全く気に留めることなく、お皿とペットボトルを持って先にみんなのとこへ戻って行った。……そうだよ、手が触れるなんて別に珍しいことじゃないし、私がいちいち反応し過ぎなだけ。それでも手をじっと見つめると、ついつい頬に熱が集まってしまうのでした。

 このすぐ後、私の席が前原くんの隣だとすでに決められていることがわかり、しばらく映画どころじゃなくなってしまうのだけど。……菅谷達だけでなく磯貝くんの笑顔もやけに優しかったのは気のせい?



 DVDを観終わって少しおしゃべりしていると、外はもすっかり暗くなっていた。「遅くまで居たら悪いから」と言って帰り支度をするよう促したのはやっぱりメグちゃん。DVDは前原くんが返しておいてくれると言うのでお任せして、「また明日」とみんなを見送った。ちなみに菅谷は、借りていた画集なんかを返さないといけないのを思い出したので残ってもらっている。

「映画面白かったね。ヒーロー物ちゃんと観たの初めてかも」
「なー。は映画どころじゃなかったみてーだけど」
「うっ……だ、だって隣が前原くんだったから……!」
「席決めたのは中村な」
「莉桜ちゃん……!」

 二階の私の部屋へ上がり、おしゃべりしながら画集を探す。すると私のケータイが鳴った。誰か忘れ物でもしたのかなと思いすぐチェックしてみると、送り主は前原くんで今日のお礼と「続編公開したら一緒に見に行かない?」というお誘いだった。固まった私を菅谷は不思議に思ったらしく、肩越しに画面を覗き、それからふっと笑った。

「良かったな。デートのお誘いだな」
「でっ、デート、なのかな」
「そうだろー。もしみんなで、だったらこっちで話合わせて二人で行けるようにしてやるって」
「そっそん……!ニヤニヤしてないでっ!」

 この後、ニヤニヤと楽しそうな菅谷に見守られながら前原くんへ返信しました。うわあぁぁ……本当に二人でだったら嬉しいけど、今から緊張するよ……!