期末テストの時間-1

 早いもので七月もあっという間に半ばに差し迫った。もうすぐ夏休み――の前に、一学期最後の一大イベントが待ち構えている。それは期末テストだ。中間テストでの敗北の記憶はまだ新しく、次こそは!とE組内のモチベーションは上がっていた。今日は天気が良いので、みんなで外へ出てテスト勉強をしている。中間テスト前の時のように殺せんせーが分身して一人一人に教えてくれているのだ。

「殺せんせー、また今回も全員五十位以内を目標にするの?」
「いいえ。先生あの時は総合点ばかり気にしていました。生徒それぞれに合うような目標を立てるべきです」

 あれ……そうなんだ。渚くんが聞いたように、私もてっきり今回も前と同じ目標だと思っていた。それで期末テストの目標だけど、殺せんせーはこの暗殺教室にぴったりの目標を設定したと言った。いったい何だろう。

「前にシロさんが言った通り、先生は触手を失うと動きが落ちます」

 そしていきなり銃を取り出し、一本の触手へ向けて撃った。みんながびっくりしていると、殺せんせーの分身に変化が起きた。普通の分身の中に小さいのが……子供の分身が混ざっている。……ん?分身ってこういう減り方するんだっけ?もう一本触手を減らすと、子供分身が増えて親分身が家計のやりくりに苦しみ始めた。更にもう一本減ると、母親分身が蒸発した父親分身の代わりに子供分身達を養わなくてはいけないという、重い展開になっていった。
 分身の物語は置いておいて、殺せんせーの触手は一本減る毎に二十パーセントの運動能力が失われるそうだ。「そこでテストについて主題です」と、話が期末テストの目標のことに戻る。

「教科ごとに学年一位を取った者には、答案の返却時、触手を一本破壊する権利をあげましょう」
「!!」

 みんなの驚きが深くなった。ええと、じゃあ、もしもE組で総合と五教科で一位を取ることができたなら、先生の触手を六本も破壊出来るということ!?一本だけでもそれなりの影響が出るみたいなのに、それを六本も……。

「これが暗殺教室の期末テストです。賞金百億に近付けるかどうかは…皆さんの成績次第なのです」

 この話を聞いてみんなのやる気が一層みなぎってきたことがわかった。もちろん私も。普段の暗殺であまり役に立てない分、ここで頑張んなきゃ……!


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「ごめんちゃん!ここ教えてほしいんだけど……」
「うん、いいよ」

 教室に戻ってからもみんなテスト勉強を続けていた。何人かで教えて合ったり一人で黙々とやったり。私は優月ちゃんと机をくっつけて、原さんと凛香ちゃんとも一緒に勉強していた。基本的にはそれぞれで問題解いたりして、わからないところは教え合う。優月ちゃんは「ありがと〜」と少し申し訳なさそうな顔をするけれど、人に教えると自分の理解も深まるし、なにより今回の目標はみんなで協力してこそ達成できるものだと思うからなんの問題もないことだ。

「そう言えば、烏間先生とビッチ先生どこ行ったんだろ?」
「先生達は理事長のとこ行ってるみたいよ」
「え、どうして?」
「また中間テストの時みたいなことがないように……じゃない?」
「あー…」

 ふと顔をあげた原さんが誰ともなしに言うと、凛香ちゃんがそう答えた。烏間先生とイリーナ先生、さっきから見ないと思ったら本校舎に行ってたんだ。でも、何をしに?と首を傾ぐと、凛香ちゃんは肩を竦めながら言った。そっか、そうだよね。また前みたく直前に試験範囲が変わっちゃったら暗殺的にも困っちゃうよ。ちらりと視線を横に向けると、向こうで千葉くんや岡島くんと勉強していた菅谷と目が合って、ひらひらと手を振られた。

『――音頭を取る中心メンバーは、“五英傑”と言われる椚ヶ丘が誇る天才達だ』
「ん?」
「なになに?」

 こちらも手を振り返していると、突然電話越しの声が聞こえてきた。なんだろう?と、今度は教室の前へ目を遣る。今の声の出どころは杉野くんのケータイのようだ。


『中間テスト総合二位!!他を圧倒するマスコミ志望の社会知識!!放送部部長、荒木鉄平!!

中間テスト総合三位!!人文系コンクールを総ナメにした鋭利な詩人!!生徒会書記、榊原蓮!!

中間テスト総合五位!!四位を奪った赤羽への雪辱に燃える暗記の鬼。生物部部長、小山夏彦!!

中間テスト総合六位!!性格はともかく語学力は本物だ!!生徒会議長、瀬尾智也!!』


 ここで杉野くんがストップをかけて電話の相手……進藤くんに今のナレーションは自分で言ってるのか尋ねた。そしたらさっきよりは小さな声で「一回やってみたかったんだ」と。進藤くんって野球部のだよね?球技大会の時と違ってなんだかお茶目な感じだ。

『そして…中間テスト一位、全国模試一位。俺達の学年で生徒の頂点に君臨するのが……支配者の遺伝子、生徒会長浅野学秀。あの理事長のひとり息子だ』

 進藤くんによる五英傑のみんなの紹介が終わった。いつの間にかみんな聞いていたようで、ごくりと息を呑んだり「へー」とあまり興味は無さそうだったりと、反応は人それぞれだ。それにしても、学校のテストも模試も一位でその上生徒会長な浅野くんって本当にすごいなぁ。私、期末テストでは中間の時に逃した1位を取りたいと思ってるけど……勝てる、かな。いや頑張るけどっ!ふうと一息ついて飲み物に手を伸ばす。

『ああそれから、五英傑ではないが女子で唯一奴等と同等の人物がいたな。中間テストでは荒木と同じく総合二位、元A組の勝利の女神、生駒さん』
「げほッ!」
「わあっ!ちゃん大丈夫!?」
『今はE組に落ちちまったがな。これに関してはお前らが羨ましい』
「お、おう。同じクラスだとその女神が吹くレアなとこも見れるしな……」
『は?』

 うぅ……おかしな単語が聞こえて思いっきりむせてしまった。え、A組の勝利の女神って、てっきり榊原くんだけが言ってるのだと思っていたんだけれど。も、もしかして私が知らないだけで実はみんなに知れ渡ってる……!?いやいやいやそんなまさか。

「大丈夫?生駒さん」
「う、うん……ありがとう原さん」

 くすくすとおかしそうに笑う原さんがハンカチを差し出してくれたので、有り難くお借りする。進藤くんの電話は途中聞き逃しちゃった。だけど凛香ちゃんが教えてくれたところによると、進藤くんは私達E組を心配して、A組がみんなで勉強会しているという情報を伝えるために電話してきたそうだ。五英傑のみんなが教えることでA組がトップを独占し、E組の本校舎復帰を妨害するつもりなのだろう。
 だけど私達の目標は、もはや本校舎に戻ることではない。詳しいことは伏せていたけど、杉野くんが進藤くんにお礼を言って「頑張るよ」と言うのが聞こえた。

 ……よしっ、私も頑張るぞ!