期末テストの時間-2

「A組と賭けを?」
「そうなんだ……」

 翌朝のホームルームで、今回の期末テストではE組とA組で勝負をすることになったと聞かされた。

 なんでも昨日の放課後に磯貝くんと渚くん、莉桜ちゃんと有希子ちゃんとカエデちゃん、そして奥田さんが本校舎の図書室で勉強をしていると、A組の浅野くん除く他の五英傑のメンバーに絡まれたそうだ。それで、どちらが多く教科トップを取れるかという勝負を持ちかけられ、勝った方は負けた方になんでも命令できるという条件まで突き付けられたんだとか。
 突然そんな事態になって磯貝くんは申し訳なさそうにしていたが、私はむしろ逆に良い効果になったんじゃないかと思ってる。だって、クラス中のやる気がさらに一層増してるんだもん。みんな負ける気なんてさらさらない。三年A組は本校舎の、そしてうちの学園全体の頂点だ。そんな人達に、いわゆる最下層のE組が勝つようなことがあれば……結果次第ではすごく面白いことになりそう。

「……ん?」
「どーした、?」
「あ、うん、メールきたみたい」

 勝ったらどんな命令出そうか、なんて話をするみんなを眺めているとケータイのバイブが鳴った。誰だろう?と思いながらメールを開く。送り主は今話題にのぼっていた五英傑の一人だった。

「あのっ!今、荒木くんからその賭けに関することでメールが来たんだけど……」
「なんて?」
「えっと、賭けのルールは『勝った方が下せる命令はひとつだけ』で、『その命令はテスト後に発表する』んだって」

 メグちゃんに促されてメールの内容を読み上げる。わざわざ明確に示されたルールにみんなきょとんとしている。それから、「ひとつだけかー」なんて残念そうな声がちらほら。荒木くんからのメールによるとこのルールは浅野くんが決めたらしく、A組も本気なんだなって感じがした。

生駒さん、悪いけど『了解』って返信しておいてもらっていい?」
「うん、わかった」


****


、今日は放課後やってくのか?」
「うん。菅谷も残っていこうよ」

 放課後になるとすぐに菅谷がそう聞いてきた。答えはすでにわかってるって感じだったけど。菅谷に言った通り、今日はもう少し残って勉強するつもり。本当は本校舎の図書室へでやりたいところだけど、きっと予約でいっぱいだから無理だろうなぁ。まあとにかく、一緒に勉強していこうと誘うと、菅谷は初め少し渋ったけれど「そーすっか」と言って教科書を取り出した。

「おっ、生駒さんと菅谷も残んの〜?」
「!前原くん!」

 菅谷と机をくっつけていると、教室に戻ってきた前原くんがひらひらと手を振りながらやって来た。ドキドキしながら「そうだよ」と返す。前原くんの方は残るかどうか迷っているらしい。それを聞くなり菅谷は私をちらりと見て、それからニヤリと笑った。

「前原も俺らとやってかね?わかんねーとこはが教えてくれるし」
「!?」
「そー?生駒さんはいい?俺も混ざって」
「も!もも、もちろん!」
「そっか!んじゃ教科書とか取ってくるわ」

 動揺して吃りながらもぶんぶんと頭を縦に振る。視界の端で菅谷があっち向いて笑いを堪えているのが見えた。前原くんは、にかっと笑って自分の席へ鞄を取りに行った。い、一緒にお勉強だ……!

「良かったな?
「う……あ、ありがとうね、菅谷」
「どーいたしまして。そんじゃ俺は適当に理由つけて帰るからあとはと前原で……」
「!?だ、駄目!二人きりとか、緊張するでしょ!!」
「おま、何度も二人で遊び行ったりとかしといて……」

 荷物をまとめて席を立とうとする菅谷を慌てて引き止めた。確かにもう何回か前原くんと二人で遊んでるし、よく話すようにはなったけどそれとこれは別だ。まだ二人きりは緊張するもんなんです!そう訴えると、菅谷は「わかったわかった」と苦笑して私の頭をくしゃりと撫でた。





「日ィ暮れんのも遅くなったなー」
「うん。まだ全然明るいね」

 菅谷と前原くんと勉強会してるとあっという間に時間が経っていた。外はまだ暗くなる素振りをまったく見せないから気づかなかったよ。夏だなぁ、なんて話を前原くんとしながら山道をゆっくり降りる。ちなみに菅谷は、私達の後ろを歩いている。……たぶん、今振り向いたらにやにやしてると思う。

生駒さん」
「えっ、浅野くん?」

 まだ暗くはないけれど菅谷と前原くんが家まで送ってくれると言うので、山を降りた後もそのままおしゃべりしながら歩いていた。そしたら知っている声、浅野くんに呼び止められた。

「どうしたの?何か用事だった?」
「いや、用事というか、調子はどうかなと思ってね」
「ばっちりだよ」

 ああ、今思い出したけど、E組になる前もテスト前はこうして浅野くんに調子を聞かれてたっけ。なんだか懐かしい。「ばっちり」とピースサインを向けると浅野くんは微かに目を見開いた。

「……そう言えば、賭けの話は聞いたかい?」
「うん、磯貝くんが今朝のホームルームで教えてくれたの。あと荒木くんからもメールもらったから」
「そう」

 やっぱりここで私を待っていたのは、この件について話すため……?菅谷と前原くんは会話には入ってこないけれど、例の賭けの話題が出たことでこちらを気にしているようだ。「それがどうかした?」と首を傾ぐと、浅野くんは薄く笑った。

「それはA組とE組の、賭けだよね」
「……?うん」
「それとは別に、生駒さん。僕と個人的な賭けをしないかい?」
「私と浅野くんで、個人的に?」

 思いがけない提案に目を丸くさせながら、浅野くんの言葉を繰り返す。浅野くんは相変わらず笑顔のまま頷き、「賭けの内容はクラスのものと同じだよ」と付け足した。ええと、つまり、私と浅野くんでテストの順位を競い、順位が上だった方が下だった方になんでも命令できるってこと?……順位っていうか、実質一位になるか二位になるかの勝負ってことだよね。

「前に生駒さんは、E組にいても成績を落とさない、負けないって言ったよね」
「う、うん。言ったよ」
「それを――E組にいても良い成績が取れるってことを認めるよ。もしも君が勝てばね」
「っ……!わかった、その賭けにのるよ」
「ちょ、!」

 もしもを強調されて挑発されているのはわかったけれど、私は浅野くんの提案にのることにした。そしたら慌てたような声色の菅谷に肩を掴まれる。浅野くんは目を細めて菅谷を見据え、すっと笑みを浮かべた。

「君は随分と生駒さんと仲が良いんだね?彼女を名前で呼ぶ人なんて他に思い当たらないな」
「えッ、いや、俺は……」
「いやいや!俺らE組ってクラス仲すげーいいからみんな名前で呼び合ってんだよ!なー、?」
「えっ!!?」

 にこにこと笑顔の浅野くんに詰め寄られて菅谷がしどろもどろしていると、前原くんが隣に立った。私の顔を覗きこんで、いきなり名前を呼ぶ。本当に、本当にあまりにも突然のことだったので一瞬頭がショートしちゃったよ……!口をぱくぱくさせながら前原くんを見ると、「話合わせて!」みたいなことを言いたいのがわかった。

「そ、そうなの!E組ってみんな仲良しだから!私もみんなに名前で呼ばれてるの!」
「……へえ」

 浅野くんにそう訴える私の両隣で、前原くんと菅谷もそれを肯定するように頷いた。浅野くんは短く答えたあと両隣の二人に目を遣り、それから「お互い頑張ろうね」と私に微笑んでから去って行った。ふう、と小さく息をつく。

「……つうか、いいのかよあんな賭け乗って」
「あー…あれ要はどっちが学年一位を取るかって話だもんな。……大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ!頑張るから……!」

 二人に心配そうな顔を向けられて改めて考える。学年一位を私はまだ取ったことがない。その座にいるのはいつも浅野くんだったから。そんな浅野くんと私の勝負。……急に不安になったのは私だけの秘密にしておこう。  殺せんせーの触手を破壊する権利を得ること、A組より多く教科一位を取ること……個人的に、浅野くんに勝つこと。たくさんの目的ができた一学期の期末テストが、もうすぐ始まる――