期末テストの時間-3

 二日間の試験が終わり、全教科の採点が各クラスに届く日がきた。うちの学校では答案用紙と一緒に学年内順位も届けられるので、誰が、どのクラスが教科一位を取ったかは一目でわかる。今回は暗殺のこととA組との賭けのことがあるから、いつも以上に順位が気になるところだ。いったいいくつ一位を取れているのか……ドキドキの発表を私は教室で聞いている――はずだった。

「総合一位おめでとう、生駒さん」
「あ、ありがとうございます……」

 自分のテストの結果を、私は旧校舎の教室でなく本校舎の理事長室で聞いていた。登校する時に今日は理事長先生の方に呼び止められたのだ。殺せんせーにはもう知らせてあるからついて来るようにって。車に乗せられ本校舎へ行き、理事長室へと導かれた。しばしの沈黙を緊張しつつ待ち、ようやく口を開いた理事長先生はこう言ったのだった。
 総合、一位だったんだ。初めての一位。テストが終わった時点でかなりの手応えは感じていたけれど、こうして結果を聞くと喜びもひとしおだ。……だけど理事長室にいるってことと、わざわざここへ呼ばれた理由がいまいちわからないから手放して喜べないよ……!

「嬉しくはないのかい?」
「いえっ!嬉しいです、すごく。でも……あの、私はなぜ理事長室に招かれたのでしょうか」
「いやなに、総合一位を取った優秀な生徒に直接称賛を述べたかっただけだよ」

 理事長先生は相変わらず笑顔のままそうおっしゃった。ほ、本当にそれだけの理由だったのかな……?学年一位の生徒には理事長先生から直接「おめでとう」を言われるなんてそんなシステム聞いたことないけど。……そもそも、今まで一位は浅野くんしかとったことなかったんだけどね。混乱しつつももう一度「ありがとうございます」と言うと、理事長先生は椅子にゆったりと腰をかけ直し、少し間をおいてからまた口を開いた。

「今回はE組全員が随分と頑張っていたようだね」
「あ……はい。殺せんせーと暗殺に関することである約束事をしていましたので」
「成程。……ところで生駒さんは、本校舎へ戻るつもりは?」

 じっと見据えられて何度目かわからない緊張が背筋に走る。ああ、私やっぱりこの人のこと少し苦手かも。しかし質問の答えはとっくに決まっているので、きっと理事長先生を見つめ返し、はっきりと答える。

「ありません。E組に残ります」
「そうですか」

 あっさりした反応に思わず目を見開く。だけど理事長先生はそれ以上クラスについては何も言わず、にこりと微笑んで私の答案用紙が入った封筒を差し出し「もう戻って構いませんよ」と言った。ちょっぴり拍子抜けしつつ、封筒を受け取って理事長室を後にした。
 廊下へ出ると、自然と溜め息が零れた。ああ、緊張した。本校舎を出ながら封筒から学年順位表を取り出す。E組は私の他に、莉桜ちゃんが英語で、磯貝くんが社会で、そして奥田さんが理科で教科学年一位を取っていた。頑張ってたもんね、三人とも。ふっと頬が緩むのを感じる。そして総合順位表……私、浅野くんと同点だったんだ。ってことは例の賭けは引き分けになるのかなあ。

「(それよりも……)」

 『一位 生駒』この文字が嬉しくて嬉しくて!旧校舎へ戻る足取りはまるで跳ねるようだった。


****


「ただいま戻りましたー…って、あれ、どうしたの?」
「おや、お帰りなさい生駒さん。総合一位おめでとうございます」
「ありがとうございます!」

 教室に到着し、戸を引くとみんなの視線を一斉に集めた。みんなが「おめでとう」と言ってくれてる中、殺せんせーもそう言って伸ばした触手で頭を撫でてくれる。……のは良いんだけど、殺せんせー、寺坂くん達に詰め寄られてどうしたんだろう?ちらりと目が合った岡野さんは、悪戯っ子のような顔で笑っていた。首を傾げていると、肩に腕を回される。

「おう生駒、ちょうどいいとこ来た。家庭科を五教科って認めねーあのタコ説得してくれよ」
「え、家庭科……?」
「バカそれじゃわけわかんねーよ」
「私ら家庭科のテストで100点取ったのよ。つまり四人とも学年一位」
「ええっ、本当!?すごい!」

 寺坂くんの話ではいまいちなんのことかわからなかったけど、その横から狭間さんが代わりに簡単に説明してくれた。教科はなんであれ満点取るってすごいよ!それに家庭科なんて担当の先生の好みにもよるし、主要の五教科よりある意味100点取るの難しいんじゃ?だから素直にすごいと言ったら、寺坂くん達の顔がなんていうかすごくあくどい感じになった。

「殺せんせー諦めなよ。生駒さんも認めてんだよ?家庭科さんが五教科で最強だって」
「そんなわけありません!生駒さん、生駒さんは先生の味方ですよね!?」

 カルマくんから寺坂くん達へ援護射撃だ。殺せんせーは涙目になりながら私を揺さぶった。ちょっと迷ってから、みんなの方を見る。磯貝くんやメグちゃんの呆れつつもおかしそうな顔、莉桜ちゃんや杉野くんの「言ってやれー」なんて声、そして他のみんなの楽しそうな表情。うん、なんて答えるか決まった。

「殺せんせー、主要五教科でいっちばん難易度の高い家庭科で四人も満点取ったんですよ?触手四本分の価値は十分あると思います」
「にゅやーっ!!生駒さんまで……!」
「ほら殺せんせー!学年トップのちゃんまでこう言ってるんだよ!」
「そーだぜ先生、約束守れよ!」
「合計触手八本!!」
「八本!?」

 にっこり笑って答えると殺せんせーは愕然とした顔になって、破壊される触手の合計数を聞いて真っ青になった。教室中に笑い声が広がる中、磯貝くんがすっと手をあげる。

「これは皆で相談したんですが、この暗殺に…今回の賭けの『戦利品』も使わせてもらいます」

 テストが始まる前に、A組との賭けに勝った場合の命令の内容として、殺せんせーは「あるもの」を寄越せと言ってはどうかと提案していた。その提案には私達も大賛成だった。そして殺せんせーのいない間にみんなで話し合い、賭けの戦利品と触手を破壊する権利の二つのご褒美を一緒に使ってはどうかという考えでまとまったのだ。どちらか一方ずつよりかは同時に使用する方が、きっと暗殺の成功率も上がるだろうと考えたからだ。

「それと――生駒さん」
「なぁに?」
「A組への命令内容、浅野にメールしておいてもらってもいいかな?」
「うん、いいよ。すぐにメールするね」

 「よろしく」と片手を挙げる磯貝くんに頷き、私は自分の席へ向かった。その途中で前原くんと目が合い、「学年一位おめでとう」と笑顔を向けられる。それは他の誰かから言われるよりも嬉しくって、私はついつい満面の笑みを返すのだった。