二学期になって火薬の他に新しい暗殺訓練としてフリーランニングが取り入れられた。今学期の体育の授業では烏間先生の指導の元そのトレーニングを行っている。受け身から始まり、今は基礎的な動きを習得しているところだ。
「どこもジャンプ売り切れてて探しちゃった………!?」
「遅刻ですねぇ。逮捕する」
フレーランニングを始めて少し経ったある日のことだ。殺せんせーは朝からなぜか警官のコスプレをしていた。サングラスをかけてガムを噛んでいる姿はアメリカの映画に出てきそうな警察官だ。そんな先生は遅刻してきた優月ちゃんが教室に入るなりそう言って手錠をかけた。そして、私達に遊びを提案してきた。
「それは、ケイドロ!!裏山をすべて使った3D鬼ごっこ!!」
「ケイ…ドロ…?」
「懐かしいな。うちの小学校はドロケーだった」
「私のとこはケイドロだったよ」
菅谷とそんな話をしながら殺せんせーのルール説明を聞く。泥棒役は私達生徒で決定のようだ。フリーランニングの訓練で身に付けた技術を使い、裏山を逃げたり潜んだりするようにとのこと。そして警官役は殺せんせーと烏間先生が務めるそうだ。一時間以内に全員を捕まえられなかった場合は、烏間先生のお財布で生徒全員分のケーキを買うって。ただし、全員捕まった場合は宿題が二倍に。これにはみんなからブーイングがあがった。
「ちょっと待ってよ!殺せんせーから一時間も逃げられるかよ!!」
「その点はご安心を。最初追うのは烏間先生のみ。先生は校庭の牢屋スペースで待機し…ラスト一分で動き出します」
「…なるほど。それならなんとかなるか…」
「よっし。やってみるか皆!」
「おーう!!」
殺せんせーにハンデが付くのなら……先生達とケイドロというのも楽しそうだし。それに私達が勝った場合のご褒美を聞いてみんなやる気満々だ。……烏間先生は不服そうだけど、いいのかな。
体操服に着替え外へ出ると、泥棒役の私達は何人かで組んでさっそく裏山へ散って行った。グループ分けはいつも集団で暗殺をする時と同じく修学旅行の時の班分けだ。私は二班。そこから更に適当に三組ほどに分かれ、私は菅谷と一緒に行動することになった。
「そろそろ烏間先生が追い始める頃かな」
「だな。追ってくんのほとんど烏間先生だけだし、結構余裕かもなー」
のんびりとしゃべりながら岩から岩へ、そして木を伝って少し離れた岩へと飛び渡る。前はこんな動き出来なかったのに、訓練の成果がさっそく出ていて嬉しい。隠れる場所も探しながら歩いていると菅谷の携帯が鳴った。律ちゃんが状況を教えてくれることになってるので、全員持って来たのだ。
「もしもし?」
『菅谷!?生駒さんもまだ無事か!?』
電話の相手は岡島くんだったようだ。焦った声がここまで聞こえてくる。すると、私の携帯からデデーンと音が鳴った。画面を見ると「岡島君、速水さん、千葉君、不破さん、アウトぉー」と律ちゃんが楽しそうに知らせる。……うそ、もう四人も!?
「いやいや岡島よ〜。タッチされるまで気付かないとかバトル漫画じゃねーんだから」
後ろではまだ、菅谷が岡島くんと話している声が聞こえる。確かに信じられないけど現に四人とも捕まっている。ふとフリーランニング訓練の初回を思い出した。あの時三村くんが「一分で行けたら上出来」と判断した道のりを、烏間先生は十秒で行ってなかった……!?
「すがっ……!」
「ぎゃああああーーっ!!」
私が振り返るのと菅谷が悲鳴を上げるのは同時だった。えっ、あっ!?菅谷の背後で逆さまになって首元に手を回していたのって……!?呆気に取られていると、ポンッと頭に大きな手が乗せられた。
「菅谷君、生駒さん。逮捕だ」
「は、はいぃ……」
にやりと口角を上げる烏間先生に、弱々しく返事をするほかなかった。
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「だ、大丈夫?叶ちゃん。涙目だよ」
「すごいこわかった……」
「俺もまじこわかった」
「……お疲れさん、菅谷も」
あれ以降イリーナ先生始め続々と捕まって行く知らせを、私やすでに捕まったみんなは牢屋スペースで聞いていた。殺警官から渡された刑務作業……もとい、数学ドリルをやりながら。だけど大丈夫かな……もうクラスの半分近くは捕まっている。それも早いペースで。このままじゃ全員逮捕されるのも時間の問題。向こうの茂みでは杉野くんや渚くんがなんとか私達を助けようとチャンスを窺っているけど、この牢屋を守っているのは殺せんせーだ。
「やっぱりこれしかないか……!」
「岡島くん!?なにか逃げる手段が……」
にやりと笑ってみせた岡島くんは体操服のポケットから何枚か写真を撮り出した。……ちらりと水着の女の人が見えた気がするけど。そして殺せんせーをちょんちょんと突き、その写真を差し出す。先生は静かにそれを受け取り、「行け」と言うように触手を振る。すかさず岡島くんが杉野くんと渚くんを呼び、掴まっていた私達は無事脱走することができた。
「い、いいのかなぁ……」
「しょーがねーって。宿題二倍を避ける為だぜ」
「まあ……使える方法かもね。一応みんなに知らせとこ」
凜香ちゃんが携帯を取り出すと同時に、律ちゃんから脱走者の知らせが入る。ちらりと振り返ると殺せんせーはまだ写真に見入っていた。烏間先生、怒るだろうなあ……。
それからも何度か捕まって牢屋行きになったが、岡島くんのように誰かが賄賂を渡したり殺せんせーがサボっている時を狙っては脱走を謀った。ほぼ全員が逮捕と脱走を繰り返したことだと思う。なかなか全員しっかり捕まえることができず、次第に烏間先生は殺せんせーにむけて怒りを露わにしていた。
「生駒さん、最後の作戦聞いた?」
「うん、ばっちり」
「こっから組むのは俺と三村と矢田な。行こう」
徐々に私達も烏間先生から逃げるのが上手くなったと思う。殺せんせーがコツを教えてくれたおかげだ。携帯を使って情報を共有し、最後の作戦に向けて動くこととなった。残り時間ももう少ない。磯貝くん達と合流し、私達は“向こう”の様子を悟られないよう反対方向へ逃げる。
…――結局また烏間先生に捕まってしまった。あとのことは、前原くんと木村くんとひなたちゃん、メグちゃんのE組で特に機動力に優れた四人に託された。烏間先生に挑戦する……と見せかけて、なるべく遠くへと誘き出すためだ。カルマくんと渚くん、杉野くんが殺せんせーを待ち構えるプールから、遠いところへ。
「ラスト一分!」
「大丈夫だ。いくら烏間先生でも一分であそこからプールまで行くことはできない」
「それに殺せんせーは水中にいるカルマくん達に触れない……」
これは……!私達は期待に満ちた顔でお互い見合う。その時笛の音が響き、律ちゃんがゲームの終わりと私達泥棒側の勝利を知らせた。