絆の時間

「あれ、メグちゃんどうしたの?」
生駒さん。見て、あれ」

 次の日の放課後、教室に戻ろうとしていたらメグちゃんが廊下の窓越しに中を窺っていた。その表情が優しかったので思わず声をかける。あれ、と指差された先を見ると、イトナくんの机に男子達が集まっていた。机の上には工具とかラジコン?の中身のようなものが広げられている。私にはよくわからないけど、もしかしてイトナくんが作っているのかな?

「楽しそうね、みんな」
「うん。イトナくんももう馴染んでるみたいでよかったね」

 「そうね」と言って笑うメグちゃんの顔は本当に優しい。委員長の二人はクラス内の輪を大切にしてるからなあ。みんながイトナくんを歓迎したこととか、イトナくんがはやくもE組に溶け込んできていることが嬉しいんだと思う。くすりと笑みを零すとメグちゃんは不思議そうに首を傾げた。

「どうしたの?」
「ふふ、メグちゃんって本当優しいよね」
「えっ!?そ、それよりあっちは男子に任せて行こ行こ!」
「うんっ」

 メグちゃんは仄かに頬を染めて、そう言いながら私の背中を押した。照れてるメグちゃん、かわいい。なんて言ったらまた赤くなっちゃいそうだ。
 楽しそうなところを邪魔するのは悪い気がして、教室は男子だけにしてあげることにした。校舎に残っている他の女の子達はどこ行ったんだろう。メグちゃんと二人でおしゃべりしながら他の教室か外へ行こうかなんて思っていると、靴箱のところで莉桜ちゃんや陽菜乃ちゃん達とばったり会った。

「メグ、ちゃーん!」
「桃花、みんなもどこ行ってたの?」
「さっきまでビッチ先生としゃべってたんだ〜。そだ、二人もこれから暗殺バドミントンやんない〜?」
「やる!」

 お誘いにはもちろん乗って靴を取りに行く。すると莉桜ちゃんがニッと笑って私達を振り返った。

「校庭まで競争ねー。よぃドン!」
「あーっ、ずるーい!」
「わわっ、待ってー!」
 そう言って駆けだした莉桜ちゃんを慌てて追いかけて外へ出る。――うん?何か今視界の隅に見えたような……。

ちゃん、どうしたの?」
「んー…ううん!なんでもない」

 まあ、気のせいか。みんなに手招きされたので急いでそっちへ向かった。


****


 それからしばらくの間、はメグ達と暗殺バドミントンを楽しんだ。他に校舎に残っていた女子達も、彼女達の姿を見つけたのか続々と校庭に集まりゲームに加わった。メンバーを替え対戦相手を替え、何度目かのゲームが終わったところでは顔を手で扇いだ。

「お疲れ様です、生駒さん」
「ありがとう。奥田さんはまだやらないの?」
「私はもうちょっと休憩で」

 苦笑する愛美には「そっか」と笑いかけた。運動していたため二人の頬は上気している。は額を伝う汗を拭い、肩越しに校舎へ目を遣った。

「私、タオル取ってくるよ。汗かいちゃったし」
「わかりました。行ってらっしゃい」

 そう告げて校庭を離れていくを愛美は手を振って見送る。その時ちょうど先程までやっていたゲームが終わった。莉桜が校舎へ戻ろうとしているに気づき、暑そうに髪を掻き上げる。

「私らもちょい休憩にしよっか?」
「そうね、ずっとやってたし」
「みんな〜、いったん教室戻ろ〜」

 ちょうどキリも良い。陽菜乃が声をかけると他のみんなも賛成し、ぞろぞろと靴箱へ向かった。

 はというと、一足先にもう教室の前まで来ていた。中からは男子達の賑やかな声が聞こえる。「こっちも楽しそうだな」と微笑を浮かべながら、は邪魔にならないよう控えめに扉を引いた。

「よっしゃ!三月までにはこいつで女子全員のスカートの中を偵察するぜ!」
「……なに言ってるの?」
「げっ生駒さ……生駒さん!?」

 しかし、岡島のこの発言につい口を開いてしまった。さっきまで男子しかいなかったはずじゃ……!?声のした方へ振り返った彼らはびくりと肩を跳ねらせた。

「や、やべえ!生駒のやつ今まで見たことねーくらい冷めた目ェしてんぞ!」
「す、菅谷なんとか弁解しろって!」
「悪ィ無理」
「即答!?しっかりしろよ“一番仲良し”!」

 がくがくと岡島に揺さぶられながら、菅谷は青い顔をして「しょうがねーだろ俺ものあんな目初めて見るし!」と言い返す。その間もから送られる視線はどんどん冷やかになる。渚や磯貝たちはどうしようと考えつつ、の表情に耐えきれずそっと視線を逸らした。そして今度は、一番聞かれたらまずい発言をした岡島に「なんとかしろ」と男子達の訴える目が集まる。冷や汗を垂らす岡島はついに覚悟を決めた。

「あ、あのな生駒さん。今のは誤解……」
「岡島くん。今の発言とそこの機械は何か関係あるのかな?」
「い、いやっ!?俺達別にこれで女子のスカートの下を盗撮しようとか計画してなんかっ」
「へえ。その計画、私達にも詳しく聞かせてほしいわね」
「げっ!?」

 いつのまにやら他の女子達も集まって、岡島をはじめとする男士達に軽蔑の眼差しを送っていた。今度こそ逃げられない。それでも岡島はなんとか言い訳しようとするが、彼が口を開く前にメグ達がずいと詰め寄った。
 岡島が説教されるところへタイミングを見計らって渚が止めに入る。常にエロいことを考えている岡島と違い、穏やかな渚になだめられメグは怒気を抜かれた。その様子を眺めながら菅谷はそっとの隣に並んだ。

「……」
「な、なんだよ。まだ怒ってる?」
「……別に」

 がちらりと見上げると、菅谷はどぎまぎしつつそう尋ねた。は短く答えて顔を前に向け直す。菅谷がまだ内心焦っていることをなんとなく感じながら、は気づかれないようにまたちらりと目を遣った。

「(……ああいうモノ作りとか、女の子のスカートの中が気になったりとか)」

 と菅谷は一年生の頃に出会って以来、まるで兄妹や幼馴染みのようにずっと仲良しだ。だからと言って別に“そのこと”を忘れていたわけではない。ただ、“それ”を意識しないくらい親しいというだけ。――だからこそ、

「(菅谷もやっぱり、男の子なんだなあ……)」

 そう、改めて強く感じるのだった。