体育祭当日、あいかわらずE組にとってはアウェイ感満載な時間だ。せっかく百メートル走で木村くんがぶっちぎりの先頭を走っているのに、実況者は頑なに「E組が〜」って言ってくれないんだもん。だけどそれも気にならなくなるくらいの熱い応援の声が私達の側にはあった。
「ふぉぉカッコいい木村君!!もっと笑いながら走って!」
「……なんだか殺せんせーが一番楽しそう」
「本当だね」
それは殺せんせーだ。一応変装をして私達の中に混じり、E組の誰かが競技に出るたび写真を撮りまくっている。渚くんが苦笑しながらメモ帳に『殺せんせーの弱点三十一 他人なのに親バカ』と書き込んだ。本当、中学生にもなれば親ですらこんな熱烈な応援することなくなるんじゃないかな?でも、苦笑いしながらもすごく嬉しく思った。
「叶、そろそろ行こーぜ」
「おーっ!」
さすがにトラック競技では陸上部達には勝てないけど、それ以外でなら暗殺訓練での成果を発揮できている。原さんのパン食い競争とか、カエデちゃんの網抜けとか。
「菅谷と生駒さんメッチャ速ぇ!!息合い過ぎだろ!」
「さすが一番仲良しコンビ……」
あと私と菅谷の二人三脚とか!もともと息ぴったりだと自負してるし、それに訓練で鍛えた運動能力が加算されてるんだから!
……そんなふうに好調であるものの、男子の、特に磯貝くんの顔には緊張の色が隠せない。今年の体育祭の目玉はE組対A組の棒倒しだ。男子達はA組に勝つため今日までにじっくりと作戦を立てていた。今のE組の力と磯貝くんのリーダーシップを持ってすれば、不利な状況でもきっと負けないと、みんなが信じている。だけど……A組の強力な助っ人を目の当たりにして、表情が強張ってしまったのだ。
『A組は幸運に感謝すべきでしょう!たまたま偶然!!この四人の外国の友人が研修留学に来ていた事に!』
A組の助っ人とは四人の外国人。聞いた話によるとみんな浅野くんの知人らしい。偶然なんて言ってるけど、この棒倒しでE組を徹底的に潰すために呼んだに違いない。……浅野くんも本気だ。
いよいよ棒倒しが始まった。E組女子全員で行方を見守る。少人数ながらも奇策を交えた磯貝くんの巧みな作戦と指示でA組を翻弄して行く。しかし浅野くんの指揮能力と彼個人での攻撃力も負けていない。それでもE組は浅野くんを邪魔するための援護を増やしていき、A組の棒が傾きかけたその時……
「今だ!来いイトナ!!」
磯貝くんの合図でE組の秘密兵器のイトナくんが走り出す。そして磯貝くんの手をバネにして思いっきり飛び上がり……イトナくんが棒に捕まった勢いと下で押していたみんなの力で、A組の棒は完全に倒された。
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一学期の期末テストに引き続き、あの不利な状況下でE組がA組との勝負に勝利した。下級生を中心に本校舎の生徒達の私達を見る目が変わってきたのを感じる。これまでは差別の対象だったのに、この変わり様だ。自然と自信がついても無理はない、よね。
「あ、浅野君だ」
「おい浅野!二言は無いだろうな?磯貝のバイトの事は黙ってるって」
そんなことを考えていると、校舎から浅野くんが出てきた。そうそう、磯貝くんの件について確認するために残ってたんだった。
「……僕は嘘をつかない。君達と違って姑息な手段は使わないからだ」
「……」
「でも、さすがだったよ、おまえの采配。最後までどっちが勝つかわからなかった」
眉間に皺を寄せて答えた浅野くんに対して、磯貝くんは笑顔で「またこういう勝負しような!」と握手を求めた。しかし、浅野くんはそれには答えず去って行った。……浅野くん、なんとなく顔色が悪いみたいに見えたけど……大丈夫かな。私はちょっと迷ってから後を追った。
「浅野くん!」
「叶さん……。何か用かな」
「ありがとう。磯貝くんのこと、約束守ってくれて」
「……いや」
誰もいなくなった放送席のテントの裏でようやく追いついた。短く答える浅野くんの険しい表情はやっぱり、E組に負けたからってだけじゃないようにも見える。「浅野くん」と控えめに呼ぶと、ゆるりとこちらに振り返った。
「その、大丈夫?何かあったの?」
「どうしてそんなことを聞くんだい」
「どうしてって、心配だからだよ?」
「……叶さん」
「わっ!……浅野くん?」
浅野くんは私の腕を掴んで引き寄せたかと思うと、少し屈んで肩に頭を乗せてきた。らしくない行動に戸惑う。もう一度呼びかけてみても浅野くんは黙ったまま。本当に何があったんだろう。心配になって背中を撫でてあげようかと手を伸ばしかけた時、今度は後ろから引っ張られた。
「浅野。今回は生駒さんをA組に戻すって条件は無かったはずだろ」
「……前原」
「行こ、生駒さん。みんなも旧校舎戻るってさ」
「う、うん。……浅野くん、またね」
前原くんは浅野くんと数秒ほど睨み合ったあと私に笑いかけて手を掴んだまま引っ張っていく。慌てて浅野くんを振り返ると、少しだけ微笑んでひょいと手を挙げてくれた。それもでやっぱり心配で、前原くんに手を引かれながらもチラチラと振り返る。
「気になるの?浅野のこと」
「うん。ちょっと心配というか……友達だったし」
他のみんなと違って私と浅野くんやA組との関係は少し複雑、かも。「ふーん」とだけ答えた前原くんの表情からは何を考えているのか読めなかった。そして前原くんはなかなか手を離そうとしなかったので、E組のみんなと合流してからは何があったのと根掘り葉掘り詮索されるのでした。