秋は椚ヶ丘学園最大の行事、学園祭がある。すでに準備期間に入っていて、本校舎では勉強の片手間に各クラス準備を頑張っているようだ。ここでも売上によって順位が決められるのだけど、トップになったら就活でアピールできるくらいだもんね……。試験と同じくらい気合が入るイベント。また今年の中学校舎ではA組対E組の話で持ち切りのようだ。
「やたら本校舎が盛り上がっちゃってんだ。勝てないまでも何かE組はやるんじゃないかと」
「勝ちに行くしかないでしょう」
三村くんの話に振り返った殺せんせーは顔の刺せるところ全てにお団子を刺していた。殺せんせーは、今回の対決はこれまでのA組との勝負の集大成になるというけれど……問題はいくつかある。文化祭の出し物は、お店系は300円でイベント系は600円までと単価の上限が決まっている。お店をやるとしても、安い材料費の食事をしに一キロメートルもの山登りをして果たしてお客さんが来るのだろうか。しかも杉野くんの話によると、A組は浅野くんが大手企業とスポンサー契約を結んでドリンクと軽食を無料提供してもらい、イベント系でお客を集めるらしい。
「浅野君は正しい。必要なのはお得感です。安い予算でそれ以上の価値を産みだせば客は来ます」
「E組におけるその価値は――」と、殺せんせーはどんぐりを取り出した。どんぐりは裏山にたくさん落ちている。殺せんせーに言われみんなでとにかくたくさん集めてきた。それを粉状にして小麦粉代わりにし、ラーメンを作ろうということになった。“つなぎ”も具も、サイドメニューやデザートも全てこの裏山で手に入る。
「この食材は君達と同じ。山奥に隠れて誰もその威力に気づいていない」
「隠し武器で客を攻撃か。まあ殺し屋的だわな」
「殺すつもりで売りましょう。山の幸の数々の刃を!」
やることが決まればさっそく準備に取りかかった。メニュー開発にポスターやホームページ制作など、得意な人を中心に分担して作業して行く。私は原さん達とサイドメニューやデザートの試作だ。
「デザートはこの二種類でいいかな?」
「うん。あとはサイドメニューと……飲み物も欲しいよね」
「モンブラン美味し〜」
山で採れた食材の中から吟味して、デザートメニューは柿とビワのWゼリーとモンブランに決まった。試しにいくつか作ってみたんだけど、すごく美味しそう!試食しながらサイドメニューについての話し合いをしていると、前原くん始め外で作業していた数人が戻って来た。
「おっ、生駒さんいいもん食ってるー」
「デザートの試食だよ。前原くん達も食べる?」
「食う!」
休憩にということでみんなにもゼリーとモンブランを味見してもらうことにした。味とかいろいろ意見聞いて改良していきたいもんね。前原くんはモンブランを一口食べると「すげー美味い!」と笑った。
「よォ前原に生駒。お前ら付き合うことンなったのにまだ名字呼びなのかよ?」
「えっ」
「な、なんだよ急に……」
「そう言えばそうだよね〜」
「名前では呼ばないの?」
寺坂くんがそう言ったのをきっかけにみんなの視線が私達に集まった。な、名前ってそんないきなり変えるのはちょっと気恥ずかしいというかなんというか……。私も前原くんも、お互い名字で呼ぶ期間が長かったからこっちの方がしっくりくるというか。「試しにちょっと呼んでみたら?」なんて提案するみんなは……に、ニヤニヤと楽しそうだ。
「は、原さん、モンブランとゼリーひとつずつ貰ってもいい!?」
「うん、いいよー。どこ持ってくの?」
「菅谷と三村くんが一緒に作業してると思うから、差し入れしてくるね!」
急いで二つ取って調理室を飛び出す。「あっ、叶ちゃん〜!」との声が追っかけたが聞こえなかったふりして教室へ走った。
「あーあ、叶ちゃん逃げちゃった」
「あんま茶化すなってお前ら……」
「そーいうのは殺せんせーに言っておくべきだな」
後から聞いた話によれば、この時殺せんせーも窓の外でノートを構えて聞き耳立ててたんだとか。
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そして学園祭一日目。三村くん作のホームページや桃花ちゃんの客引き、山登りにも工夫した。そのお陰か案外お客さんは入っているみたいだ。
「生駒、どんぐりつけ麺くれ」
「イトナくん!偵察係じゃなかったっけ?」
「食いながらやる」
「イトナてめーっ!俺が断ったからってちゃっかり生駒に頼んでんじゃねえ!」
当日は教室全体を調理場にして、注文が入るたびにどんどん作っていく。村松くんは怒りながらもイトナくんにどんぐりつけ麺を一杯渡していた。イトナくんはそのまま屋根の上へ偵察に戻っていく。ラーメンは試作の段階で私も食べたんだけど、今までにない味ですごく美味しかった。これならお客さんにも評判になるよね!
「生駒さん、モンブランとゼリーも後でイトナ君に持って行ってあげて?」
「うん、わかった」
「原、あんまイトナを甘やかすなよ。ったく……」
「いーのいーの」
しばらくすると突然注文の数が増えてきた。おおっ、またたくさん入ってきたみたい。料理を盛りつけながら校舎の外にセッティングした席に目を遣る。さっきまでわかばパークのみんなが来てくれていたけど……あ、あれ。なんか客層変わった?
「叶ー。どんぐりつけ麺二つと燻製と塩焼き一つずつな」
「う、うん。ねえ、あの人達って……」
「あー…殺せんせーを殺せなかった殺し屋達、だとよ」
ぽかんとして外を見渡していると菅谷がオーダーを持って来た。それを中に通してから席の方を指差して尋ねると、菅谷は苦笑しながら教えてくれた。殺し屋の人達だったのか……なるほど。しかも彼らのことは殺せんせーが呼んだみたい。殺し屋さん達は、恨めしそうな目でシャチホコに扮した殺せんせーを見上げているが、すぐに料理に夢中になって美味しそうに食べてくれていた。
「ビッチ先生が何人か貢ぎコースに持ってってるし、売り上げは結構行くかもな」
「うん……そうなるといいな」
今まで関わりのあった人達がたくさん来てくれて、売り上げの伸びもそこそこ。だけどイトナくんの偵察を聞いた様子ではA組もなかなか手強そうだ。学園祭の勝負も勝ちたいなあ……。