学園祭も二日目になった。
「生駒、菅谷、おはよ」
「おはよー凜香ちゃん」
「はよ」
朝、菅谷と山道を歩いていると凜香ちゃんとばったり会った。その後に千葉くんと三村くん、渚くんとも合流。話題はお店の客数と売り上げのこと。本校舎に貼ってあった売り上げの速報では、やはり三年A組がトップだった。なんとか負けないようペースを上げていくことは出来ないものか……と悩んでいると、私達の傍をテレビ局の人達が走って行った。
「何撮るつもりだ?」
「この先はE組しか…」
「「なんだこりゃ!?」」
「すごい人……!?」
旧校舎の前には長蛇の列ができていた。これはE組の出店の開店待ち……なんだよね?な、なんで急にこんなに人が集まってるの!?
「大変!ネットで口コミが爆発的に広がっててさ」
「少し潜って情報の発信源を探してきました。その結果出てきたのが……」
優月ちゃんが見せてくれた画面を覗き込む。法田ユウジという人気のグルメブロガーがE組の出店の記事を載せことにより、興味を持った人がたくさんこうして来てくれたみたいだ。なんでそんな人が椚ヶ丘の学園祭に?たまたま来ていたのだろうかと思ったが、どうやらこの人には沖縄旅行の時にホテルに潜入した時に会っていたそうだ。渚くんに会いに昨日来てたんだって。
「ホラ!あんた等も早く店の準備して!」
「メグちゃん!」
「生駒さんは原さんを手伝ってあげてね!」
メグちゃんに押され私達も急いで校舎へ向かった。それからお客さんはひっきりなしにやって来た。もう必死で注文が入るたびに採って、作って出して、また売って……その繰り返し。
「生駒さん!A組の子来てるぜ」
「えっ本当!?」
昼前頃だろうか、次々とモンブランを作っていると注文を持って来た前原くんがそう付け足した。学園祭前にメールは送っていたけど、あの子、来てくれたんだ!少し話したいけどまだ忙しいし無理だよね……。なんて思っていると「生駒さん」と原さんに呼ばれる。
「行っておいでよ。朝からずっと料理してくれてたし、休憩がてらにさ」
「でも、いいの?」
「私が叶ちゃんの代わりに手伝ってるから、ね?」
「オラ、どんぐりつけ麺できたぞ」
「みんな……ありがとう。じゃあちょっと行ってきます!」
村松くんからどんぐりつけ麺とモンブランのお皿を載せたトレイを受け取って、お言葉に甘えて少し休憩に入ることにした。わっ、多少客足が落ち着いてるとはいえまだまだたくさんのお客さんがいる。きょろりと辺りを見回して、あの子を見つける。
「お待たせ。来てくれてありがとう!」
「ううん!噂は聞いてたけどすごい人だね」
彼女も驚いたように目を丸めて周囲を見渡した。そして人気商品のどんぐりつけ麺をさっそく勧めてみると、また目を見開いて「おいしい!」と声をあげる。どんどん食べ進める様子を見ながら、私の頬は緩んでいた。
「すごいね、E組。今回もA組に勝つんじゃないかって本校舎じゃ話題だよ」
「ぜひとも勝ちたいんだけどなあ……。そういえばA組の方離れてていいの?」
「うちは食べ飲み物の補充とか片付けを交代でやればいいくらいだから。五英傑はバンド演奏もしてるけどね〜…動画見る?」
「見せて!」
彼女が昨日撮ったという五英傑のみんなのバンド演奏を見せてもらう。……すごい、浅野くんもみんなもあんなに楽器できたんだ。客席からは黄色い声がたくさん聞こえる。来てもらったアイドルや芸人さん並みに人気なんじゃないかな?かっこいい、思わずそう呟くと彼女は「浅野君たちに伝えておくね」と悪戯っぽく笑った。
「……あのね、私が生駒さんと仲直りしたこと、みんなにも話したんだ」
動画を見続けていると彼女はポツリとそう言った。みんなって……A組の女の子達かな。そう聞くと頷き返された。なんて話したんだろうと、少しだけ緊張してしまう。
「それでさ、もうすぐ期末でしょ?それが終わって落ち着いたら……みんなで話そうよ、前みたいに」
「……でも、」
「私だけじゃなくってみんなも、E組での生駒さんを見ていろいろ思ってたみたいなんだ」
「そう、なの?」
「うん。私……もうあの時みたいに生駒さんを傷付けたりしないって約束するから」
そう言う彼女の目には、信用できるものがあった。A組のみんなと話をするのは、まだ少し緊張があるけれど……大丈夫、大丈夫。今の私にはちゃんと居場所があるから。「じゃあ、期末が終わったら」そう返事をすると彼女は嬉しそうに顔を輝かせた。
「生駒さーん。これ。特別サービスだって」
「えっ。そんな、お金出すよ」
「いーからいーから」
前原くんが山ぶどうジュースを私と彼女の前に置いた。そんな悪いし売り上げに貢献するのに!と教室を振り返ると、中のみんなは優しい顔で手を振った。前原くんは戸惑っている私に「みんなからの仲直り祝いだって」と耳打ちする。……もう、E組のみんなは優しすぎる。
「……ほんと、良いクラスなんだね」
「うんっ!」
私達のやり取りを見ていた彼女はしみじみとそう言った。その表情が少し寂しそうに見えたのは……私の希望的観測かな。目が合うとなにか誤魔化すように笑われた。
「それに……前原、だっけ。生駒さんと仲良いよね。前に声かけた時も一緒に帰ってたし」
「あー…それは、えっと……」
「?」
機会が無かったからなんだけど彼女に話すのを忘れていた。だけど改めて言葉にするのはなんだか気恥ずかしくて……ちらりと前原くんを見上げると、同じように恥ずかしげな笑みを返された。そしたらこの雰囲気を察したのか、彼女は「まさか」と信じられないと言いたげな顔で呟く。頷く顔が赤くなるのを感じた。
「実はお付き合いを始めました。先月の終わり頃からかな」
「大変!浅野くん達に知らせなきゃ……!」
「いやそれは……」
そう口を挟んだのは前原くんだった。彼女は相変わらず驚いた顔で私達を交互に見る。私が前原くんのことを好きって話もしたことなかったもんね……それはびっくりするよね。この改まった感じで報告するのがやっぱりちょっと恥ずかしい。でも、こういう話も出来るような仲に戻れて本当に良かったなと思った。
それからまたしばらく二人で話して、あの子は再び客足が増える前に帰った。期末テストの頃にまたメールするねと約束をして。
「生駒さん、あの子もう帰ったの?」
「うん。本校舎に戻って他のみんなにも勧めてくるって言ってたよ」
トレイ片手に教室へ戻ろうとすると、前原くんが廊下で待っていた。「そか」と言って私の頭を撫でる手も顔も、とても優しい。不意に昨日、寺坂くん達に言われたことを思い出した。
「あのっ」
「ん?」
「ひ、陽斗くんっ」
「!えっ、あっ、え!?」
「……って、呼んでもいいかな?」
みんなに言われたからってわけじゃないけれど、付き合うってことは別に堂々と名前で呼んでもいいってことなのかなって考えた。前原くんは口元を手で覆って顔を反らしている。
「だ、駄目かな?」
「っ……いや、良いよ。もちろん。俺も今日から叶って呼ぶな!」
「!うん!」
「陽斗くん」「叶」意味もなく名前を呼び合っては、照れ臭くなって笑い合った。呼び慣れた今までの呼び方を急に変えるのはやっぱり緊張する。けど、それ以上に幸せな気持ちが膨らんでいった。
「叶ー!イチャついてるとこ悪いけど手伝ってくれる!?」
「あっ、わかった!すぐ行くね!」
「ラストスパート頑張らねーとな!」
今度は「頑張ろう」と気合を入れ合って、それぞれ持ち場に戻った。