期末テストは終わったけど二学期の行事はまだ一つ残っていた。演劇発表会だ。今日それについての日程表が配られた。
「よりによって二学期末のこの時期になぁ」
「冬休みの暗殺の準備したいのに」
暗殺に受験勉強とE組ではやらなくてはいけないことがある上に、今回の行事でも差別待遇は相変わらず。E組の劇に割り当てられた時間はお弁当タイムだし、道具なんかは全部旧校舎から自分達で運ばないといけない。ついつい不満を漏らしてしまうけれど、磯貝くん伝手に聞かされた浅野くんの言葉にやる気が湧いてきた。今の椚ヶ丘学園は一見なにも変わっていない。だけど確かに、旧校舎と本校舎はこれまでよりもずっと良い関係になっていた。
「よーし、やると決めたら劇なんてパパッと終わらそーぜ!」
「とっとと役と台本決めちゃおう!」
それにこれが終われば冬休みの暗殺にやっと専念できるもんね!さっそく劇やその他の役割を決めていく。監督は三村くんで脚本は狭間さん。そして肝心の主役は――
「先生…主役やりたい」
誰が適任かな、そもそもどういう劇にする?とみんなでわいわい話し合っていると殺せんせーがそう言った。な、なんかやけに日程表見つめてると思ったら!殺せんせーはやってみたいって聞かないけど、国家機密なんだから無理じゃないかなあ。そう思ったが、狭間さんはあっさりと「いーわよ」と言った。
「あとは…杉野、神崎と組んで脇を固める二人をやんなさい」
「え!?いーのかよ神崎さん!?俺りゃもちろんうれしーけど…」
「演技力無くてもよければ。声は他の人が当てるんだよね」
「や、やったぜ生駒さん!俺と神崎さんで!」
「よかったね、杉野くん!」
ぱちんっとハイタッチに答える。杉野くんすっごく嬉しそうだ。狭間さんは早くも脚本の執筆に取りかかっている。いったいどんな劇になるんだろう?楽しみだ!
「よっしやるか!」
「せっかくだ、本校舎の奴等を興奮の渦に叩きこもうぜ!」
「おーう!!」
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そして演劇発表会当日、E組の演目『桃太郎』は大反響を呼んだ。……盛大なブーイングを食らったって意味でだけど。舞台袖からは本校舎の生徒達のひいた顔がよく見えたなぁ。だけど脚本を書いた狭間さんも主役(?)の桃太郎を演じた殺せんせーも大満足のようだから良かった……のかな。
「しっかし杉野は熱演だったよなー」
「あんな邪悪な顔が出来るとはね」
なにより凄かったのは杉野くんかも。練習の時は緊張でガチガチだったけど本番ではあの演技力だもん。本人は有希子ちゃんと共演だから力入り過ぎたって落ち込んでたけど、有希子ちゃんが「演技力がある人ってカッコいいなってすごく思った」と声をかけるとたちまち元気になっていた。
「杉野はいーよ。俺とか犬だぜ犬。エサもらう畜生て……」
「えと、あの。陽斗くん、か、かわいかったよ!」
「ありがと叶。でもあんま嬉しくねー…」
と、とにかくこれでやるべき学校行事は卒業式を覗いて全部終了した。次はいよいよ冬休みの暗殺。予算は烏間先生がたっぷり確保してくれている。冬ならではの暗殺プランも既にいくつか上がっているし、私達だって訓練やいろんな経験を通して成長した。だからきっと、夏休み以上の暗殺ができるはずだ。
「じゃあ班に分かれてさっそく取りかかろうぜ!」
「おう!」
いつも通り修学旅行の時の班に分かれてそれぞれ暗殺プランを綿密に練る。熱中していてふと気がつくと、教卓にいたはずの殺せんせーはどこかへいなくなっていた。暗殺計画中だから気を遣って席を外したのかなあ。新しい紙を用意しながらのんきにそんなことを思う。
「あ、あのっ、誰か茅野さんを見ませんでしたか?」
「あれ?そう言やさっきからいねーな」
「渚君もだよ。ったく二人でどこ行ったんだか」
「ほーう?二人で消えるなんて怪しいじゃない」
「もー、なに言ってるの莉桜ちゃ…」
その時、突然ドゴォォン!!と轟音が響き地面が揺れた。
「なっなに!?」
「外か!?」
ただ事ではない物音に私達は急いで教室を出た。あの音の原因として考えられるのは誰か他の暗殺者の奇襲とか……?いったいなにが起こったんだろう。校舎の外へ出た私達が見たのは、土で汚れた殺せんせーと、屋根の上に立って先生を見下ろしているカエデちゃんの信じられない姿。
「…か…」
「…茅野さん」
「…何?その触手?」
カエデちゃんの首の後ろからは二本の触手が生えていた。どうして、いつから!?驚愕する私達をよそに、カエデちゃんは殺せんせーを見据えたまま薄く笑う。つい数十分ほど前のカエデちゃんとは雰囲気ががらりと変わっていた。
「…茅野さん。君は一体…」
「ごめんね、茅野カエデは本名じゃないの。――雪村あぐりの妹。そう言ったらわかるでしょ?人殺し」
雪村あぐり……どこかで聞いた名前だと思ったけど、他のみんなの反応を見て思い出した。E組の殺せんせーの前任の先生だ。険しい表情のままのカエデちゃんは殺せんせーに明日殺すと宣言すると、触手を器用に駆使しそのまま去ってしまった。困惑の空気が流れる中、「前に茅野を見たことがあると思ってた」と三村くんが呟く。
「……んー…?雪村先生とは似てなかったと思うけどな」
「違うんだよ。キツめの表情と下ろした髪で思い出した。磨瀬榛名…って憶えてるか?」
三村くんが向けたケータイの画面を覗き込む。まさか、この元子役がカエデちゃん……!?半信半疑だったが、教室に戻り律ちゃんに昔の“磨瀬榛名”が出演していたドラマを映して見てみると信じざるを得なくなった。顔つきも雰囲気も違うけれど、確かにカエデちゃんだ。
「殺せんせー。茅野…先生の事人殺しって言ってたよ。なぁ…過去に何があったんだ?」
クラスメイトのまさかの正体だけでなく、彼女が放ったあの一言にも私達は衝撃を受けていた。“人殺し”だなんて、殺せんせーからはイメージできない言葉だった。だって先生は、暗殺者を手入れすることはあっても殺すことは決してしてこなかったから。だけどカエデちゃんがそんな嘘を言うとは思えないし、殺せんせーもそれに反論することなくずっと黙ったままだった。
「こんだけ長く信頼関係築いてきたから…もう先生をハナっから疑ったりはしないよ。でも、もう話してもらわなきゃ。殺せんせーの過去の事」
カエデちゃんのあのただ事ではない雰囲気。今回ばかりは今までのように殺せんせーにはぐらかされるわけにはいかない。ちゃんと話してくれなければ、もう誰も納得できない状況なのだ。殺せんせーは沈黙のあと重々しく口を開き、「……わかりました。先生の…過去を全て話します」と言った。
「ですがその前に、茅野さんはE組の大事な生徒です。話すのは…クラス皆が揃ってからです」
次の日の午後七時、殺せんせーと私達はカエデちゃんが指定したすすき野原へ集まった。