殺し屋たちの時間

 みんな順番に自分の気持ちを述べて、それぞれ殺す派殺さない派に別れていった。あっさりと吐き出された意見、まだ悩みが見える意見……いろいろな意見が出たが殺せんせーは全て嬉しそうに耳を傾ける。私は――

「殺せんせー。先生はもしも殺されるなら、私達に……殺してほしいんですよね?」
「ええ、生駒さん。先生の気持ちは変わりませんよ」

 それだけ確認できれば十分だ。殺せんせーのことは大好きだし殺さない派のみんなの気持ちもよくわかる。だけど私は、殺せんせーが言った私達の絆を大事にしたいし、先生の望みをえたいと思う。

「仮に私達が止めても、国は殺せんせーの暗殺を撤回したりはしませんよね。――それで、なんの事情も知らない暗殺者に、私達の想いごと踏みにじられて私達の先生を殺されてしまうくらいなら、」

 その時殺せんせーが殺される様を見ているだけしかできないくらいなら、殺せんせーが自分の命を懸けて育ててくれた私達の手で。それに莉桜ちゃんが言っていたことに似てるけど、この教室では先生を殺すことが恩返しに繋がるんだと思う。だから私は、殺す派の箱に入った銃を取った。
 最後にカルマくんと渚くんもそれぞれ武器を手にし、チーム分けが終わった。殺す派は十五人、殺さない派は十三人、中立が一人。人数や男女比、そして各ジャンルのスペシャリストが殺す派――赤チームに揃っていることから、こちらの方が有利なように見える。結果どうなるかは戦ってみないことにはわからないけど。超体育着への着替えも済み準備は整った。戦いを取り仕切るのは烏間先生だ。

「互いのチームの旗の距離は百メートル弱。俺は中間地点で勝負の判定を行ったり…ゾンビ行為等の反則を見張る。それ以外は…君達がどこから攻めようが知らないフリをしているから安心しろ」

 それから烏間先生は超体育着の新機能、フード内の内臓通信機と目を保護する極薄バイザーのことを教えてくれた。二手に分かれ作戦会議を始める。赤チームを指揮するのはカルマくん。向こうは磯貝くんかな。

「まずは迷彩塗らねーとな。
「ん、任せて」

 菅谷が投げて寄越したスプレーを受け取り私も迷彩塗りを手伝う。そして莉桜ちゃんの体操服を塗っていると、莉桜ちゃんはナイフを回しながら黙り込んでいたカルマくんに声をかけた。

「さっきはらしくなかったねーカルマ。引きずってんの?」
「…ごめんごめん、もう覚めたから大丈夫。生駒さん、中村の塗り終わった?」 「うん、もういいよ」
「じゃ、中村は千葉と速水さん呼んできて」
「お、いつもの君だ」

 莉桜ちゃんは、にししと笑い千葉くんと凜香ちゃんを呼びに行った。その後ろ姿を見るカルマくんはまだどこか思い悩んでいるよう……。じっと見ているとカルマくんがこちらを振り向き、ふっと笑った。

「そんな心配そうな顔しなくたって大丈夫だって」
「そう?それなら、いいんだけど」
「ん。あと、生駒さんは銃とナイフ持って俺と行動ね」
「……?うん、わかった」

 千葉くんと凜香ちゃんにそれぞれ指示を出したカルマくんは、他のみんなに各々の最初の配置と役目を伝えた。私はとりあえずカルマくんと行動と言われたので、律ちゃんの実況――誰が殺られたかという結果だけだけど――を聞きながら後をついて行く。初めに殺られたのは青チームの竹林くんとメグちゃんだった。撃ったのは千葉くんと凜香ちゃん。さすがの二人だ。

「!生駒さん、ちょっとここで待機」
「!はいっ!」

 カルマくんに止められ私は草陰に身を潜める。その時、千葉くんと岡島くん、そして菅谷が殺られたとの実況が入った。まさか、誰が!?しかし驚く私とは対照的に、カルマくんはニッと口角を上げると静かに木の枝に飛び移る。そしてその下にいた人物――有希子ちゃんを捕まえ、持っていたナイフで切り裂いた。

「びっくりした……まさか有希子ちゃんが今の三人を殺っただなんて」
「そーいう意外な奴の活躍がどんどん見れるかもよ。さてと、赤チーム聞こえる?俺が指揮とるよー」

 カルマくんは赤チームだけに通じる無線を使いながら私にちょいと手招きをした。三村くんに指示を出しながら赤チームの旗の近くの岩へ移動する。三村くんの偵察情報のお陰だろう、次々と青チームが殺られた知らせが入った。この地形とメンバーの特性をよく把握したうえで的確な指示を下す……さすがカルマくんだ。すると、今度はやれやれと言いたげな表情になる。

「先走りやがった。描く通りに動かないね、人って奴は」
「しゃあないねぇ。この副官様が決めに行ってやりますか」
「莉桜ちゃん気をつけてね〜」
「任せなさいって。はそこのリーダー頼んだよ」

 ひらりと手を振った莉桜ちゃんは寺坂くん達が待機している方へ向かった。リーダー…カルマくんを頼んだって、そう言えば私の役割はなんだろう?言われたままについて来たけれど……。

生駒さんは俺の周囲で青チームの奴がここまで来てないか警戒しててね。もし誰かいたら迷わず撃つこと」
「あ、じゃあ私の役割ってカルマくんを守ることなんだね?」
「守るっつーか、まあ。生駒さんの射撃に腕は信頼してるからさ」

 「千葉や速水には劣るけど」そう言われながらも、やっぱり信頼されていることは嬉しい。銃を構える手に力が籠った。

「……でもさ、意外だな」
「なにが?」
「俺はてっきり生駒さんは前原と同じ側につくと思ったから」
「……それとこれとは話が別だよ。この戦いで大事なのは自分の気持ち、でしょ?」

 そう答えるとカルマくんは何も言わずただ再び意味ありげに口角を上げるだけだった。彼氏と同じ意見にしたくはなかったの、とか、そんな風なことを聞きたかったのかな。現に今の私と陽斗くんは敵対しているわけだし。だけどさっきも言った通り、この戦争で最も大切にしないといけないのは自分がどう思っているか、だ。そこに恋人同士であるとかそんな理由は必要ない。それに陽斗くんは、彼女が自分と違う意見だったからってどうこう言うような人じゃないもの。……カルマくんのことだから、全部わかっておいてさっきの言葉を言ったんだろうけど。

「……ま、じゃあ覚悟はしといてよ。俺のためにカレシを殺さなきゃいけなくなるかもだからさ」
「え、それって」
「あーあと体育着をこの岩に近い色にペイントして隠れててね」
「うん……」
 それだけ言うとカルマくんは他のみんなへの指示に戻った。私は自分なりに今後の展開を予想しながら、まだ一人だけ塗っていなかった体育着を、岩やその周辺に紛れる色に塗っていった。


****


 ――私も、その瞬間を目撃した。連れて青チームの旗へ走る莉桜ちゃんと寺坂くん達を、突如背後に現れた影……渚くんが、瞬時に撃ち殺した様を。

「す……ごい…」

 あまりに鮮やかなその動きに気づけばそんな声を漏らしていた。そう言えば沖縄旅行の時も渚くんが鷹岡先生を倒したんだっけ、そんなことを思い出しながら。
 その時、背後から人の気配を察した。陽斗くんだ。幸い彼の目はカルマくんにしか向けておらず陰に潜んでいた私には気付いていない。だから急いで二人の間に割って入り至近距離で陽斗くんを撃とうとした……が、それより先に陽斗くんのナイフが私の額を滑る。そして私はそれとほぼ同時に、隠し持っていた自分のナイフを後ろ手でカルマくんに投げ渡した。

「――わっ!」

 どさりと地面に倒れ込む。前には陽斗くんが私を支えるように座り込み私の肩越しに向こうを見上げていた。その額には赤いインクが飛び散っている。振り返るとカルマくんがナイフを器用に回しながら、向こう側をじっと見据えていた。