殺し屋たちの時間-2

 両チームとも残りは一人、カルマくんと渚くんだけとなった。渚くんは莉桜ちゃん達を撃った後またどこかへ身を隠したようだが、対するカルマくんはナイフ片手に岩を降りると堂々と歩いて行った。

「渚くーん!!銃捨てて出てこいよ!こいつで決めようぜ!」

 そんな挑戦を叩きつけカルマくんは無防備に歩き進んでいく。渚くんの武器は銃だから、ナイフが武器なうえ何の構えもしていない今のカルマくんは言わば撃ち放題だ。だけど渚くんは、銃を置いてナイフだけを装備して出てきた。

「渚……!受けて立つ気か!?」
「……きっと、この戦争の決着には最善の方法だと気づいたんだよ」

 飛び道具ではなく、カルマくんの得意なもので戦い、そして勝たないと殺す派のみんなを本当に納得させることはできない。渚くんはきっとそう考えたに違いない。

!俺らも近くで見に行こうぜ」
「う、うん!」

 観客席から殺られたみんなが下へ飛び降りていくのが見えた。陽斗くんに手を引かれ私達もそちらへと走る。途中、陽斗くんが私の頬に飛び散っていたインクを拭った。

「あの時あんな至近距離だったのになんで撃たなかったんだ?」
「……そう思ったんだけどね。撃たなかったというより撃てなかったよ」
「こっちはに気ィ取られてたおかげでカルマに殺られたけどなー」
「うー…カルマくんを守れって指示だったんだもん」

 申し訳なく思いながらそう言うと、陽斗くんにむにぃっと頬を引っ張られた。そうこうしている間に他のみんなとも合流する。自分達の戦いを追え、みんなには再び迷いが生まれているようだ。

「――どっちが勝っても文句は無ぇよ。こんだけ色々人材がいりゃ…どんな難題でもクリアできるかもしれねぇ」

 最後の二人を遠巻きに囲う。一定の距離を置いて向き合った渚くんとカルマくんは、心底わくわくしたような顔で笑った。


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 激しい乱闘の末、勝利したのは渚くん――殺さない派だった。負けてしまった殺す派も、それぞれ思うところはあるもののみんなすっきりとした表情だ。本気で戦った後だから、E組の絆がより一層深まった気さえする。烏間先生にも殺せんせーを殺さない方法を探す許可をもらえた。今月いっぱいまでという条件付きではあったけれど。
 烏間先生も殺せんせーと同じことを言ってくれた。もし殺すなら、他の誰でもない私達に殺して欲しいと。二人の先生の願いを噛み締め、クラス内戦争の結果を踏まえ、私達は今一度E組全体の意志を固めた。一月の結果がどうであれ、残りの暗殺を全力でやる、と。

「普通に考えてみよう。各国首脳は…本当に先生を殺す事しか考えてないのかな?」

 教室に帰るとさっそく、殺せんせー助命計画の話し合いを始めた。進行役を買って出た竹林くんは、自分の問いかけにノーと答える。地球を救うのが本来の目的なんだから、殺せんせーを殺さず、なおかつ爆発もさせない方法は考えられているはずだと推測する。すでに進められているであろう「助ける研究」を探ってみようと竹林くんが提案するが、烏間先生がそれは無理だと却下した。殺せんせーを造り出した会社は今ではそのデータを先進各国に譲ったそうだが、当然その情報は最高機密、私達のような中学生がそれを知るのは無理な話だが……。

「プロジェクトのデータベースに侵入しました」
「何ィ!?」
「オンラインで繋がっているCPUなら大体侵入はいれます。この一年…いっぱい機能拡張べんきょうしましたから」

 だけどE組には律ちゃんがいる!にこりと微笑んだ律ちゃんは、手に入れた研究内容とスケジュールを映し映し出した。だけど研究の核心に関する情報はここからはやり取りされた形跡が見当たらないようだ。それに関しては、手渡しという原始的な方法を用いているのだろうと殺せんせーが口を挟む。

「……で、肝心の殺せんせーを救う研究はやってんのかよ?」
「タイトルを見れば大体の内容は察しがつくね。えーと…」

 優月ちゃんが律ちゃんの画面を操作し救う研究について書かれた論文を探す。ほとんどが殺す研究な中、あった。

「アメリカ班の研究!『触手細胞の老化分裂に伴う反物質の破滅的連鎖発生の抑止・・に関する検証実験』!」

 そしてその研究サンプルは一月二十五日にISSより帰還予定よのこと。まさか国際宇宙ステーションで行っていただなんて。ともかくこれで殺せんせーを助ける研究が行われていること、その結果が近々地球に帰って来ることがわかった。だけどそれは、今月中に私達の耳にも伝わるのだろうか?烏間先生は、その可能性は低いと言う。

「厳しい事を言うようだが、上にとって君達は末端の暗殺者の一派に過ぎない。状況によっては最後まで君等に情報は来ない」
「…それじゃ最悪の場合…私達は先生を救えるかどうかもわからないまま、モヤモヤした気持ちのまま三月まで暗殺を続けろと?」

 原さんの言葉に烏間先生は口を噤んでしまった。烏間先生にだって立場があり、どうしようもないことがあるのはわかっている。たとえ標的の最も近くにいるといえ、上の人達が私達をあまり重要視していないのも仕方のないことだ。だけど、一番殺せんせーを救いたいと思っているのは私達なのに。

「烏間先生。席を外してもらえませんか」

 眉間に皺を寄せてしまった烏間先生に殺せんせーがそう声をかけた。なぜか頭を惑星のような姿にして。烏間先生が教室を出たのを確認すると、殺せんせーは私達に向き直った。

「…さて、つまり君達の望みはこうですね。宇宙から戻ったデータが研究主に渡る前に…ちょっと盗み見させて欲しいと」

 殺せんせーの確認にみんなで頷く。それがどんなに難しいかは重々承知の上だ。それでもデータが欲しい。だけど研究データを積んだ帰還船を横取りすることは殺せんせーにも難しいそうだ。いよいよ駄目かと諦めかけた時、殺せんせーがある映像を見せる。

「日本で開発中の…有人宇宙往還船の実証試験機です」

 ダミー人形を乗せたその帰還船は軌道上でISSとドッキングし、補給物資を下ろしたあと荷物を積んで地球へ帰還するらしい。そしてそれがISSに着くのは、アメリカの実験データがISSを離れる三日前。殺せんせーはにやりと笑って私達を見遣る。

「もしもこの時、人形ではなく本物の人間が乗っていたら?」
「!!!」
「…まさか」
「…はっ、うちの先生やっぱ頭おかしーわ」

 先生の言いたいことに察しがつく。その、まさかのようだ。殺せんせーはくわっと口を開き、季節外れで前代未聞な自由研究のテーマを発表した。

「宇宙ステーションをハイジャックして実験データを盗んでみよう!!」