『ISS乗っ取り計画』と題し、宇宙ステーションハイジャックに向けての準備を始めた。ロケット本体や発射台の侵入経路など、E組の各分野スペシャリストを中心に必要事項を調べ上げる。同時に裏山では訓練もした。
「生駒さん、どうかした?」
「千葉くん。んー…不思議なだなぁって思って」
殺せんせーから宇宙ステーションのハイジャックを提案された時は驚いたものの、わりとすんなり計画を立てて研究を開始した。今だって無重力対応に向けた訓練をしているし……普通の中学生であるはずの私達が、だ。しみじみとそんなことを言うと、千葉くんはおかしそうな笑い声をあげた。
「まあ俺達そもそも、担任の暗殺までしようとしてるわけだしな」
「……あ、そっか」
そう言えば私達は四月の初めからすでに普通じゃない任務を負ってきたんだったっけ。なんだかE組に来てからかなり適応力があがった気がするなぁと思ってたけど、考えてみたら当たり前だった。殺せない先生の暗殺をずっと試みてきたんだもん。それと比べたら宇宙ステーションのハイジャックなんてやろうと思えばできること……なのかな?
「生駒さん、手が空いていたらこっちを手伝ってくれないかい?」
「あ、うん、いいよ。じゃあ千葉くん、また後でね」
「おお」
なによりも、またこうしてクラス一丸となって一つのことに取り組めるのが嬉しい。笑い声が響く裏山を振り返りつつ私は校舎へ戻った。
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そして決行日の一月十八日がやってきた。闇に紛れながらトランポリンを利用して宇宙センターのフェンスを軽々飛び越える。木村くんと、私服姿の桃花ちゃんと陽菜乃ちゃんを見送りってあとの私達は草陰で待機する。桃花ちゃん達が職員さん達の気を引き、その隙に木村くんが管制室に忍び込む寸法だ。
「――成功です。管制室のパソコンに遠隔操作ウイルスを侵入させました。以後は私の命令でも管制センターを動かせます」
しばらく待っていると律ちゃんから第一段階クリアの知らせが入った。ロケット付近のセキュリティが一時解除され、その隙に私達は発射台へと走る。初めて間近で見るロケットはとても大きく見えた。
「…さすがに根元には人が多いな……。気配を消して突破するよ!私に合わせて!」
先頭で様子を窺っているメグちゃんがフードの通信機で指示を出し、呼吸と動きを合わせて発射台のふもとへ。そこから宇宙船までは階段で移動だ。50メートルを走って登るのは大変だけど、ひなたちゃんの言う通りこんなの滅多にない機会だ。ちょっとだけわくわくする。
階段を登りきると点検のため先に到着していた殺せんせーに迎えられた。管制室へは律ちゃんがダミー人形の録画映像を流してくれている。今の内に人形の宇宙服を脱がせないと。あとは誰が代わりに宇宙船に乗るかだけど……。
「適性検査ではこの中の誰でも大丈夫でしたが、行きたい人手ェ上げて!!」
殺せんせーが言うと陽斗くん含めほとんどの男子が即座に挙手した。莉桜ちゃんは「男子だねぇ」と笑う。
「まだ一度も成功してない試験機ですが…それでも乗りたい人!」
だけど殺せんせーが続いてそう言うとみんな静かに手を降ろした。うーん、散々調べて殺せんせーが点検してくれたとは言え、まだ一度も成功してないなんて聞くとちょっと怖いもんね……。そんな中、イトナくんはそれでも乗りたい意志を示す。
「けど、今回だけゆずってやる。渚、カルマ、お前ら乗れ」
イトナくんが代わりにと譲ったのはこの二人だった。最初は断っていたカルマくんも、みんなに勧められ渚くんに誘われると溜め息をつきながらも了承した。渚くんとカルマくんは宇宙服に着替え、私達はダミー人形を持って撤収する。
朝になり、私達はフェンスの外でロケット発射の時を待った。センターからE組の乗っ取り計画がバレた気配は感じられない。律ちゃんのお陰でちゃんと管制室を欺けている証拠だ。ドキドキと緊張しながらカウントダウンを聞く。五秒前、四…三…二…一…――ついに、渚くんとカルマくんを乗せたロケットが発射した。
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「おッ!帰って来た帰って来た!」
宇宙飛行士の人達との交渉を終え、データを受け取ったカルマくんと渚くんが戻って来た。二人を乗せた宇宙船はパラシュートと殺せんせーのつっぱりで速度を落としながら旧校舎のプールに落ちる。ハイジャックの成功と渚くん達が無事に帰還したことで、わっと歓声があがった。……烏間先生は険しい顔をしていたけど。
「……うおおっ、奪ったはいいがこのデータ…専門用語ばっかでさっぱりだ。叶わかる?」
「んー…こういうのは専門家に聞くのが一番だよ」
「だな。奥田!」
すぐに教室へ戻り、律ちゃんの本体モニターでさっそくデータを映してもらった。難しそうな英文を前にして杉野くんが奥田さんを呼ぶ。一通り目を通した後、奥田さんは内容を要約してくれた。彼らの任務と研究内容、宇宙空間を利用した理由、そして実験の結果――
「――さらに、以下に化学式で示す薬品を投与し定期的に全身の珪素化合物の流動を促す。…わかり易く言うと「凝りほぐす」事でさらに飛躍的に暴走リスクが下がると判明。以下の条件を満たす時…爆発の可能性は、高くとも1%以下」
「1%…?」
「…おそらくは、爆発より先に他の細胞が寿命を迎え、90年以内に穏やかに蒸発するだろう…」
「この薬品って作れんのかよ?」
「割と簡単です。…ていうか、前に私…これとほとんど同じ薬を作ったことが」
「!!」
一学期の、まだ暗殺を始めて間もなかった頃を思い出した。毒薬暗殺を試みた奥田さんが、殺せんせーに助言を貰って薬を作ってたっけ……。思いがけず近いところに解決の糸口が見つかり呆気に取られる。だけどここまでは簡単に見えて簡単ではなかった道だ。雪村先生、殺せんせー……そして私達へと繋がる今までがあったからここに辿りつけたんだ。
「何にせよ、1%以下じゃ無いも同然だ!」
「殺せなくても……地球が爆発しないで済むぞ!!」
また喜びの声が上がる。ガッツポーズしたり抱き合ったり労い合う私達を殺せんせーはニコニコと見つめていた。……なんだか自分が死なずに済むってことより、私達が喜んでいるのが嬉しいって感じだ。殺せんせーらしいけど。
「…じゃあ皆、暗殺は」
「えっ」
「一学期から続けてきた暗殺は……今日限りで終わりにしていいんだな?」
そんな中、磯貝くんが冷静にみんなに尋ねた。口を噤む私達に、烏間先生はこの結果を受けても暗殺以来は取り消されないであろうと言う。
「…どーしてぇんだ、言い出しっぺは?」
「……カルマや中村さん、千葉君や速水さんや殺す派だった皆。トンネルを抜けた今だからこそ、全員の気持ちを大切にしたい」
またみんなで話し合い、私達はE組の結論を出した。国からの依頼が消えない限り、三月まで全力で暗殺を続ける。“暗殺”は私達にとって使命であり、絆であり、大切な必修科目だから。三月までに殺せなかったら暗殺は卒業とも決めた。その後はただの生徒と恩師に戻る。悩んでぶつかり合った私達から迷いは消え、代りに揺るぎない?“覚悟”が芽生えていた。