冬休みの時間

「メリー・クリスマース!!」
「最高の聖夜ですねぇ。二月と言えばやっぱりクリスマス!」

 クラッカーの音が鳴り響く。ツリーを飾りご馳走を囲い、三年E組はクリスマス・パーティーの真っ最中だ。……二月だけど。

「おっと、よい子はもう寝る時間です!」

 時計を見上げた殺せんせーは私達に布団に入るよう言うと教室を出ていった。いろいろ言いたいことがある雰囲気だったけど、とりあえず片付け布団を敷きつめて横になる。少しすると教室の扉が静かに開かれ誰かがこっそり入って来た。殺せんせーだ……あ、サンタのコスプレしてる?白い大きな袋からプレゼントを出そうとしたところを狙い、みんなで一斉に飛びかかった。

「明けましておーめでとー!!」

 静寂の後にパッと教室の明かりが点いたかと思うと、いつの間にかみんな和服に着替えさせられていた。い、いつの間に。殺せんせー楽しそうだなぁと眺めつつ、華やかな着物に内心嬉しく思っていると陽斗くんと目が合う。陽斗くんも他の男子の例に漏れず袴姿だ。見慣れない格好にドキドキしていると陽斗くんはニッと笑った。

、着物似合うな」
「あ、ありがとう。陽斗くんもかっこいいよ!」
「なあ前原、の髪弄っていい?」
「おー、いいぜ」

 照れながらも褒め返していると、菅谷が櫛を片手に妙に楽しそうにそう聞いてきた。なぜか私じゃなくて陽斗くんに。でも……ま、いいか、二人とも楽しそうだし。私達がそんなことをしている間に殺せんせーは袴から部屋着に着替え、だらだらと寝正月(ごっこ)をしていた。誰も遊びに来なかった冬休みが相当寂しかったみたい。殺せんせーの過去を知ってみんなそれぞれ悩みに悩んでいて、暗殺したり先生と遊びに学校へ行くって空気じゃなかったから……。分身を使ってテレビ番組の出演者や視聴者を全部一人でやって一人ウケてる殺せんせー。うーん、本当にすっごく楽しそうだ。

、出来たぜ」
「ありがとう。もういいの?」
「おう。――そんじゃまあ、」
「殺るか」

 一人で盛り上がっている殺せんせーとは対照的に、みんなからは殺意が満ちていた。菅谷と前原くんも銃とナイフを取って殺せんせーを狙いに行く。そんなみんなを苦笑しながら眺めつつ、私も参加しようと着物を脱いだ。髪型は――制服には少し派手だけど、せっかくだからもう少しこのままにしておこうっと。
 そして十二月の大みそか格闘技、カウントダウン番組、一月のゆく年くる年、箱根駅伝、高校サッカーに成人式と逃してしまったイベント暗殺を超特急でやり、二月の節分が終わってようやく日付に追いついたのだった。殺せんせーは鬼のコスプレをして涼しい顔だが、私達はもうバテバテだ。相変わらず速いし殺せない。だけど、ここでの暗殺はやっぱり楽しい!

「これで年末年始は思い残す事なし。安心して次の段階へ進めますねぇ」
「……?次の?」
「さぁーさ皆さん!暗殺もいいけど受験もね!!」

 いつものアカデミックドレスに着替えた殺せんせーは、参考書を広げてあっという間に教室内を現実に引き戻した。そうだった。三年E組にとって高校受験は二月の大事な行事のひとつ。私立の受験はもう再来週だし……。悩んでいた一月も殺せんせーがしっかり授業してくれていたから、大丈夫だろうとは思うけど。

「暗殺の結果がどうなろうが、たとえいくら国から頼まれようが、たとえ地球がどうなろうが。君達の暗殺は卒業で終わりです」

 私達は一年限りの暗殺者。期限が過ぎればその後はそれぞれ違う道を進む、進まなければならない。結果がどうあれ別れは必ず来るもの。わかってはいるけれど、そのことを考えるとやっぱり寂しい、な……。





「おまえら高校どこ行くんだ?」
「ああ、ちょっとだけレベル下げて余裕あるとこ行くわ」
「殺せんせーに高三の基礎まで教わったしな。高校生活は目いっぱいスキルを高めるぜ」

 放課後のみんなとの帰り道、前原くんが菅谷と岡島くんに話を振った。物作りチームはこれからは勉強よりスキル重視だもんね。菅谷なんて高校よりも美大の方へ今から目を向けているわけだし。そうだろうとはずっと思ってたけど、やっぱり高校は別々になっちゃうんだなぁ……。

?」
「ん、ううん。なんでもないよ」
「つーか前原と生駒さん、すっかり手ェ繋いで帰んのが当たり前になったなあ……」

 岡島くんはどこか憎らしげに「リア充め」と呟きながらも、持っていたカメラで私と陽斗くんを撮った。初めは恥ずかしかったりみんなにからかわれたりしてたけど、こうして登下校するのももう慣れてきたよ。繋いだ手を見せびらかすように振る陽斗くん笑い返しながらも、私の思考は「毎日こうして登下校できるのもあと何回かな」なんて方へ傾いてしまう。

「元一番仲良し的にはどーなんだよ?あれ」
「元じゃなくて現役だっつーの。べっつに俺は今まで通りと遊ぶし、気にしねーよ」
「え、彼氏はいいのかよそれで?」
「菅谷だからなー。お前だったら考えるけど」
「なんだと!」

 わいわい騒ぐ陽斗くんと岡島くんを眺めていると、菅谷がぽんぽんと私の頭を撫でた。どうしたの急に?と見上げるとフッと笑われる。

「別に卒業したら永遠の別れってわけじゃねーんだからさ」
「!」
「高校行ってもたまにはどっか行ったりしよーぜ」
「うん!」

 私がひとり寂しがっていたの、菅谷は気付いてたみたい。そうだよね、昔のように頻繁に連絡を取れないわけじゃあるまいし。たちまち気持ちが晴れて明るく返事をすると菅谷はまた笑って私の頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。