受験の時間

 ついに私の受験の日がやって来た。陽斗くんと菅谷、そしてあの子からの応援メールに目を通して緊張する心を落ち着けながら受験会場へ向かう。

「おはよ、生駒さん」
「カルマくん?お、おはよう」
「やっぱり同じとこ受けるんだと思った」

 会場は――椚ヶ丘高校。途中でカルマくんと会った。カルマくんが外部受験するってことは、この前聞いていたから今日ここで会っても不思議じゃないけど。「やっぱり」って私も受け直すこと話してたっけ……?そう聞くとカルマくんは「なんとなく」と笑った。

「A組の奴等とも仲直りしたらしいし、そしたら生駒さんなら残りそうだなと思ってさ」
「……うん、その通りだよ」

 初めは他の高校を受験するつもりだった。だけど期末試験が終わった後A組のみんなに会いに行った時、言われたんだ。外部受験をして戻って来ないかって。……高校で、私を含めたA組をみんなでやり直そうって。思いがけない提案だったけど、今までずっと仲違いしてた女の子達からもそう言われて嬉しかったのは確か。E組行きになって後悔したことはなかったけど、それでもA組のみんなともちゃんとクラスメイトとして過ごしたかったんだなって改めて気づいた。だから殺せんせーにも相談して、外部受験をすることに決めたんだ。

「それにしても、カルマくんいて良かったぁ。知ってる人がいると安心するよ」
「緊張してんの?余裕で受かるだろーに」
「わ、わかんないよ。もしかしたらって――あれ、なんか騒がしくない?」

 二人で歩いていると少し離れたところから「フレー!フレー!!カ!ル!マ!!」と聞こえてきた。その後に私の名前のエールも続く。かなり聞き覚えのある声が何重にも重なって聞こえ、私とカルマくんは一度顔を見合わせたあと急ぎ足で角を曲がった。

「フレッフレッ!カルマ!!フレッフレッ!生駒!!」
「……うわぁ」
生駒さん、無視してあっち通ってこ」
「にゅやッ!カルマくん、生駒さん、おはようございます!激励に来ましたよ!」

 声の主は殺せんせーと分身達だった。校門の傍で列になり、受験シーズンによく見る塾の先生方の激励見送りをやっていた。他の受験生や見送りに来た先生方の注目をものすごく引いている。カルマくんが私の袖を引っ張って殺せんせーを避けて行こうとしたが、ばっちり見つかってしまった。

「君達二人に関しては先生なにも心配していません!落ち着いていつも通り試験に臨むんですよ!」
「は、はい。ありがとうございます」
「……殺せんせー、まだ他にも行かなきゃなんじゃねーの?」
「そうでした、今日は吉田くんと不破さんと倉橋さんの所へも回るんです!それでは頑張ってくださいね!」

 殺せんせーと分身はぶんぶん手を振って慌ただしく去って行った。……あ、マッハで飛んでいくのが見えた。殺せんせーがいなくなった後、カルマくんが「いつも通り、ねぇ」と呟いた。目が合って思わず二人してぷっと吹き出す。

「頑張ろっか。受かったらいつものご褒美あげるからさ」
「ほんと?じゃあ、私も合格したらいつものあげるね」

 殺せんせーの“いつも通り”のお陰ですっかり緊張がどっか飛んで行っちゃったよ。他の周囲の視線を浴びながら、私とカルマくんは校舎へと向かう。

さん!」
「あれ、浅野くん」
「会えて良かった。直接頑張れと言いたくてね」

 「A組全員からの伝言でもあるんだ」と浅野くんは微笑んだ。わざわざ来てくれたんだ……嬉しい。お礼を言うと浅野くんはまた笑って、それからカルマくんの方を向いた。

「俺は浅野クンからの応援なんていらないんだけど?」
「フン、元よりするつもりも無いさ。どうせ受かるんだろう」
「そのつもり」

 不敵な笑みで睨み合う浅野くんとカルマくんは、まさに好敵手って感じだ。高校へ入ってからの二人が楽しみだなぁなんて思いながら腕時計に目を落とし、カルマくんにそろそろ行こうと声をかける。浅野くんに見送られ、私達は今度こそ校舎に足を踏み入れた。


****


「陽斗くん、おはよう!」
!どーだった!?」
「受かったよ!」

 無事に合格通知を受けたことを話すと、陽斗くんはまるで自分のことのように喜んで頭を撫でてくれた。本当に良かったぁ!これで肩の荷が降りたよ。そうだ、浅野くん達にも報告メールしなくっちゃ。陽斗くんに断りを入れてメールを作成する。

「おっ、カルマー。お前はどうだった?」
「ばっちり。生駒さんもでしょ?」
「うん、私も!」
「だと思った」

 カルマくんはそう言って笑うと、いつもの――ご褒美のいちご煮オレを投げ渡してきた。それを受け取って「私の方は明日ね」と約束する。それから三人で登校した。

「にしても、は椚ヶ丘高校かー…」
「……?どうしたの?」
「やっぱ寂しーなと思って。しょうがねーけどさ」
「ちょっと、俺いんのに二人の世界作んないでくれる、そこのバカップル」

 カルマくんはさっそくいちご煮オレを歩き飲みしながら眉をひそめてそう言った。バ、バカップルって……!た、確かに手はいつも通り繋いでるけど!陽斗くんは「いーだろ」とけらけら笑ったあと、またひとつ小さい溜め息をついた。

「それに浅野もいるしなあ……」
「浅野くん?」
「なーカルマ。浅野がにちょっかい出さないよう見ててくれよ?」
「別にいーけど。その代わり俺の方が生駒さんと仲良くなるかもね」
「はあ!?」

 「ダメに決まってんだろ!」とちょっと怒る陽斗くんに、悪い顔してニヤニヤ笑うカルマくん。そんな二人のやり取りを見ているとケータイが鳴った。メール二通受信……あの子と浅野くんからだ。

「ちょうど浅野くんから返信来たよ〜」
「なんて?」
「合格おめでとうって。カルマくんも受かったの伝えておくね」
「別にいらない知らせだと思うけど」

 陽斗くんとカルマくんは私のケータイを覗き込んで浅野くんからのメールを読んだ。別に見られて困るものじゃないからいいよね。そしてまた返信メールを打っていると、その間陽斗くん達は二人でなにやら話していた。

「浅野クンもちゃっかりしてるよね。いつの間にか生駒さんのこと名前で呼んでたし」
「ほんとだよ。あーあ、心配だ」
「ンな心配しなくとも大丈夫じゃね?生駒さんだし」
「お待たせ!なんの話?」

 メールを送信して少し先を歩いていた二人に追いつくと、揃って「なんでもない」と返された。……?気になるけど、まあいっか?差し出された陽斗くんの手を取ってまた握る。それから三人で旧校舎へ向かった。