思い出の時間

 私立、公立両方の受験期間が終了を迎えた。E組もみんな第二志望以内で無事に合格をすることができ、あちこちで安堵の息をつくのが聞こえた。あとは前々から言われていた通り進路相談をする予定……なのだけど、殺せんせーはうずうずしながら「その前にやりたいことがあります」と言った。みんなも各々クラッカーや飲み物を取り出し、殺せんせーが「お祝いパーティーをしましょう!」とでも言ってくれるのを待つ。

「このめでたき日にぃ〜…やる事と言えばぁ〜……編集作業です」
「何でだよ!!」

 だけど殺せんせーが取り出したのはパソコンや大量の写真……だった。E組だけの卒業アルバムを作るんだって。学校全体のはもう作られているけど、うちの表向きの担任は烏間先生だから当然殺せんせーが写っているものはない。(ばれない程度に写りこんではいるようだけど。)「それじゃ可哀想だよね」と桃花ちゃん。だから、殺せんせーが一年間撮ってきた三万枚の写真を使ってE組だけのものを作りたいんだそう。

「この中から…皆でベストの思い出写真を選定しましょう!」
「いつのまにこんなに」
「さすが覗き魔先生」
「でもE組だけ卒業アルバムっていうのはいいかもね」
「だな。どーせ学校全体のには俺らの写真あんまりないだろーし」

 それにしてもちょくちょくカメラで写真撮ってるなとは思ってたけど、まさか三万枚も撮ってただなんて。二冊目なわけだから意外性のある写真はどうだろうと原さんが言うと、殺せんせーは凜香ちゃんと三村くんに一枚の写真を渡した。たちまち二人の顔が赤くなる。

「凜香ちゃん?なんの写真……」
「なっ、なんでもないから!」

 凜香ちゃんは慌てて写真を後ろに隠して破いてしまった。後ろを振り返ると三村くんも菅谷に同じような反応を返している。メグちゃんや村松くんまで……。そして岡島くんは青い顔をして写真の山を見遣った。

「ひょっとしてこの中には…俺のスゲーヤバい写真も入ってんじゃねーのか?」
「それ以上があんのか!?」
「自分の探せ!回収して捨てるんだ!」

 みんな急いで写真の山から探し始めた。誰かの“ヤバい写真”を見つけても暗黙の了解でノーコメント。わ、私のそういう写真もあるのかな……?あまり変なことをした覚えはない、はずだけど。

生駒さんのは普通の写真だけですよ。安心してください」
「あ、そうなんですか?よかっ……」
「ほとんどこんな感じの写真です」
「……!!」

 殺せんせーは何枚か私がメインで写っているらしい写真を見せてくれた。付箋に『甘酸っぱいですねぇ』とコメントが書かれた私が真っ赤な顔で陽斗くんとお話してる写真とか、私が陽斗くんの後ろ姿を見つめてる写真(『先生も応援してますよ!』)とか、つい最近二人で下校してた時の写真(『どこまでいきましたか?』)とか……。全部背後にニヤニヤ顔の殺せんせーも一緒に写っている。

「ば、ばっちり撮ってるじゃないですか!」
「えぇ〜どれもこれも微笑ましいでしょう?」
「これをアルバムに載せられたら私が恥ずかしいです!」

 口を尖らせてる殺せんせーからそれらの写真を奪って、私も急いで写真探しに加わった。みんなの視線が温かいのは気のせい!
 個人のとてもじゃないけど載せられないような写真を破り捨てつつ、学校行事の写真も選んで行った。写真で振り返ってみても、本当に濃い一年を過ごしたなとしみじみ感じる。殺せんせーはというと全然足りない!と焦ったように言っていた。一万ページって……今までのしおりシリーズも含めた中でページ数が最高記録を更新しそうだ。

「外に出なさい!衣装を変えて写真の幅を増やしましょう!」

 殺せんせーの後について外へ出ると、いつの間にか大量の衣装が入ったダンボール箱が置かれていた。生物史、日本史、宗教史とお題に合わせて衣装を着替えて撮影して行く。自分も着替えながらフラッシュを焚きまくる殺せんせーはここ最近で一番楽しそうかも。

「次の衣装はこれです!矢田さん木村君、前原君と生駒さんも笑って笑って!」
「これ、ハロウィンですか?」
「いえいえ。虫歯菌です」
「悪魔じゃないのかよ」

 『歯は大切に!』と書かれたプラカードを渡された桃花ちゃんはおかしそうに笑っていた。本当こんなにいつの間に用意したんだろう?なんて思っていると、珍しく殺せんせーに早着替えさせられた烏間先生が、タキシード姿でイリーナ先生をお姫様抱っこしていた。同じく着せ替えられたイリーナ先生はウェディングドレスだ。わあっ、素敵!

「何だこれは」
「烏間先生も皆に合わせてコスプレしなきゃ。試着と言うべきですかねぇ」
「カラスマ、初夜待った無し」
「やかましい!!」
「試着と言えばもう一組」
「え――わっ!?」
「うおっ!?」

 殺せんせーがにやりと笑ってこちらを振り返ったと思ったら、次の瞬間には陽斗くんにお姫様抱っこされていた。烏間先生とイリーナ先生のように、私達もタキシードとウェディングドレスに着替えさせられていた。こ、これって、試着って!?

、俺も初夜待った無し」
「っえ!?」
「やめなさい」

 陽斗くんが真剣な眼差しでそう言ってきたがメグちゃんがそれを遮った。一旦地面に降ろされ、当然だけど初めて着るウェディングドレスをどきどきしながら見下ろす。「近い将来が楽しみですねえ」そう言った殺せんせーの顔はとっても優しかった。

「…さて、これで学校内の写真は充分でしょう」

 写真を撮りまくり、みんな制服に着替え直して一息ついた。……と思ったら殺せんせーは今度は大きな鞄をどこからともなく取り出して、男女に分けて私達を鞄に詰めた。あれ、もう終わりじゃないの?と言うか殺せんせー今、「世界中で皆さんと写真を撮る」とか言った!?

「今から世界を回るとか冗談だろ!?」
「普通の卒アルじゃ…」
「皆さん全員をゼロから持ち上げる力はありませんが…こうやってたっぷり反動をつければぁ〜…」
「聞いてない!!」

 殺せんせーは二つの鞄の持ち手を握って目一杯後ろに下がり、思いっきり空へと飛び上がった。



 世界三十か国を回り何十枚も写真を撮る……なんてありえないような卒業アルバム撮影会を一日で終えた。旧校舎へ帰った時は殺せんせー含め全員がバテバテ状態だった。でも、楽しかったなぁ。そしてその後日、最後の進路相談をしてもらった。私の今後の進路に変更はなし。「殺せんせーや雪村先生のような教師になれるよう頑張ります」新たな決意を打ち明けると、殺せんせ―は優しい顔で微笑んでいた。
 家へ帰ってからは久しぶりにクッキーを作ることにした。もう後数日で卒業式かあ……なんて、思いながら。





――その時突然、外で轟音が響いた。